研究課題/領域番号 |
15K05619
|
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
瀧本 淳一 山形大学, 理工学研究科, 教授 (50261714)
|
研究分担者 |
SUKUMARAN S.K. 山形大学, 理工学研究科, 准教授 (70598177)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 絡み合い高分子 / 分子動力学シミュレーション / ずり流動 / 誘電緩和 |
研究実績の概要 |
絡み合った高分子に高速流動を与えると、流動により分子鎖が絡み合いから引き抜かれることにより、流動が無い場合より緩和が加速すると一般に考えられている(CCRと呼ばれる)。これにより応力だけでなく誘電緩和(分子鎖の末端間ベクトルの緩和)も加速するはずで、実際、スリップリンクモデル(絡み合いだけを抽出した、簡便なモデル)による計算では、流動により誘電緩和も加速するという結果を得ていた。しかし実験によれば、誘電緩和は高速ずり流動によってもほとんど加速していない。 この食い違いの原因を探るため、スリップリンクモデルの様な簡単化のための仮定を含まない分子動力学(MD)シミュレーションを用い、ずり流動下での誘電緩和について調べている。計算には絡み合い数3から5程度の重合度の系を用い、流動下で実際に電場を印加する方法と、流動下での双極子の自己相関関数を求める方法の2つ方法で調べた。まず、2つの方法は流動下でもおよそ近い値を与えることを確認した。つまりGreen-Kubo公式は流動下(非平衡下)でも近似的には成り立っている。次に、誘電緩和の流動による加速を調べ、統計精度はまだ不足しているものの、ずり速度が緩和時間の逆数を越えると誘電緩和が加速するという結果を得ている。従って実験とは一致しないが、その原因は現時点では未解明である。 一方、応力の緩和については、ずり流動により加速することが実験的にも報告されている。そこで定常ずり流動に小振幅の振動ずり変形を重ね合わせることで、ずり流動下での動的粘弾性をMDシミュレーションで調べた結果、応力緩和も流動により確かに加速することを確認した。 本研究課題のもう一つの目的である伸長流動下での分子鎖間の摩擦低減については、摩擦低減が有ると仮定すると、これまで調べられて来た一軸伸長以外に、二軸伸長においても定常伸長粘度の急上昇を押さえる効果があることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
絡み合い高分子のMDシミュレーションを用いても、誘電緩和が高速ずり流動により加速するという、実験と異なる結果になっている。MDシミュレーションはスリップリンクモデルのような仮定を含まず、基本的には現実に対応したシミュレーションと考えられるので、実験との不一致の原因は現時点で未解明である。また、応力緩和については、実験でもMDシミュレーションでも流動による加速が見られているが、絡み合いが存在しないような低分子量の系でのMDシミュレーションでも加速が見られるため、加速の原因がCCR(流動で分子鎖が絡み合いから引き抜かれることによる加速)では無い可能性もある。実際、応力緩和の加速は、単純ずり流動が変形だけでなく回転の成分も含むことによる見かけの効果だと主張する論文も現れている。そこでずり流動下での分子鎖の回転と誘電緩和の比較検討を実施項目として追加している。また、誘電緩和についても、分子量の範囲をより広げて調べる必要があると考えている。また、誘電緩和の実験は溶融体ではなく高分子溶液におけるものなので、溶媒の効果についても考える必要があるかもしれない。
|
今後の研究の推進方策 |
流動による誘電緩和の加速については、絡み合いの無いような低分子量の場合も含め、より広い分子量の範囲で調べるとともに、ずり流動下での分子鎖の回転との関係も調べていく。現在得られている予備的結果によれば、分子鎖の回転は誘電緩和より遅く、誘電緩和は分子鎖全体としての回転には対応していないように見える。むしろ、高速流動下では分子鎖が流動方向に強く配向するため、印加する電場方向(流動とは垂直)の双極子は、分子鎖の末端部分の運動だけでも緩和出来ることが、シミュレーションで見られる誘電緩和の加速の原因とも考えられるので、定量的に解析を行っていく。 一方、流動による応力緩和の加速については、定常流動に振動ひずみを重ね合わせるのではなく、定常流動下でステップ変形を与え、その後の応力の定常値への緩和をしらべる。これにより、周波数領域ではなく実時間領域で調べることが可能になるため、分子鎖の回転との関係をより直接的に見ることが出来ると期待される。 本研究課題のもう一つの目的は、定常伸長流動下での分子鎖間の摩擦低減の有無の確認と解析である(定常伸長粘度の実験値が理論の予測のように高ひずみ速度でも増大しないことの説明として、摩擦低減が提案されている)。このため、高ひずみまで平面伸長変形を与えることの出来る Kraynik-Reilent の境界条件に対応したシミュレーションプログラムを作成中であり、それを完成させて、定常伸長粘度の増大の有無を確認する。また、伸長流動で定常に達したあと停止した場合の応力緩和と、未変形試料での応力緩和の比較から、流動下での摩擦低減の有無を確認する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
計算機が予定より少し安価になっていたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度予算と合わせ、もう一台計算機を購入。
|