ポリウレタンは水素結合によって凝集する結晶性のハードセグメントと非晶性のソフトセグメントからなるミクロ相分離構造を形成する。この熱可塑性ポリウレタンを溶融結晶化させると、大気圧下では160℃付近の狭い温度範囲でのみ、大きな球晶が形成される。この球晶では中心から規則正しく放射状に成長するために明瞭なマルテーゼクロスが観察され、この球晶を楕円状に変形させても元の球状へと変形回復性を示すことが見出されている。 それに対して、高圧二酸化炭素下では大きな結晶の形成される温度領域が20℃から80℃と広く、かつ幅広くなり、一般に知られている球晶とは全く異なる形状の結晶が形成されることが見出された。高圧二酸化炭素下で得られた結晶は球状ではなく、いびつな形状をしたモザイク状で、結晶ドメイン内に単一の干渉色を有する。結晶ドメイン内に単一の干渉色を有していることから、高圧二酸化炭素下では結晶ドメイン内に結晶鎖が単一の方向に成長していることが示唆される。高圧二酸化炭素下では静水圧効果により房状ミセルの結晶鎖が単一の方向に成長し、さらに表面張力が低いために球形にはならず、いびつな形状をした結晶が形成されたと考えられる。 得られた試料に対する動的粘弾性測定の結果から、二酸化炭素下で溶融熱処理してモザイク状結晶が形成された試料では未処理試料に比べてガラス転移温度が20℃も低下し、さらにガラス領域とゴム状平坦域における貯蔵弾性率も低下することがわかった。このようなガラス転移温度の低下とガラス領域の貯蔵弾性率の低下は、ミクロ相分離の進行に伴う相分離構造中のソフトセグメント成分の単一化に起因すると考えられる。
|