研究課題/領域番号 |
15K05623
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
英 謙二 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (60126696)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | ゲル / ゲル化剤 / ポリマー型ゲル化剤 / 物理ゲル / 超分子化学 |
研究実績の概要 |
安価なD,L-メチオニンやD,L-スレオニンを原料に使い、新規な低分子ゲル化剤を合成した。また、それらをゲル化駆動セグメントとして利用してシリコンセグメントと繋げることにより、結晶化しない安定なゲルを形成するゲル化剤を開発した。化粧品への応用を想定してシリコンオイル、流動パラフィン、長鎖脂肪酸エステルの3成分混合溶剤に対するゲル形成可能範囲、濃度を精査した。 trans-1,2-ジアミノシクロヘキサン誘導体のジアミド型ゲル化剤を使い2つの置換基の構造を変えることにより、ゲル化能の強弱、有無を調べた。構造の異なる置換基を入れることにより、ラセミ体のtrans-1,2-ジアミノシクロヘキサン誘導体でも結晶化しない優れたゲル化剤になることを証明した。この結果はWallach則との合致という意味でゲル化剤の重要な指針となると思われる。 ゲル化剤による物理ゲルの形成は、ナノレベルの繊維状会合体がまず形成され、階層構造を経てある程度大きな会合体に成長し三次元的に絡み合って、その空洞に溶媒をトラップして起きる現象である。ゲル化剤の作る物理ゲルを乾燥すると結晶へ転移せずに繊維状会合体を保ったキセロゲルとなる。キセロゲルの表面積は結晶後と比べ、はるかに大きいので、TNTやRDXのような固体の爆発物質の蒸気を蛍光消光によって検知できる爆発物センサーを開発した。 上記のようにゲル化剤は分子レベルの繊維状会合体がまず形成され、その会合体の集合を経て三次元網目構造を形成する。従来はTEMやSEMを使って繊維状会合体を観察してきたが、試料は乾燥したキセロゲルであり、生のゲルではない。そこでレーザー共焦点蛍光顕微鏡を使い溶媒を含んだ生のゲルの観察を行い、成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度の1年間で5報の論文の掲載がされ(印刷中も含む)、他に1報の論文は投稿中である。当初の予想を上回る結果と思う。特にChem. Eur. J. 22, 16937-16947, 2016の論文は共焦点レーザー蛍光顕微鏡をゲル化剤の研究に世界で初めて利用したものであり、論文のImpact Factorは5.77であり顕著な業績と考えている。また、"Characteristics of gelation by amides based on trans-1,2-diaminocyclohexane: The Importance of different substituents"なるタイトルで発表した Bull. Chem. Soc. Jpn. 90, 312-321, 2017はSelected Paperとして選出された。
|
今後の研究の推進方策 |
ゲル化剤を使い油性モノマーと水系のW/O型ゲルエマルションを作成し、低温ラジカル重合を行う。その後、水やゲル化剤を除去して多孔質ポリマーを作成する。予備実験では得られた多孔質ポリマーの密度は0.1以下で油を吸収することを確認している。W/O型ゲルエマルション作成に適したゲル化剤のスクリーニングをおこない、多孔質ポリマー作成の手法を確立し普遍化したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の研究計画が思いのほか順調に進み、当初予定していた溶媒や試薬の購入が減ったことが影響していると思われる。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は平成29年度請求額と合わせて、継続される平成29年度の研究実施のための試薬購入に充てる。具体的には溶媒としてジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、酢酸エチル、ジメチルホルムアミドなどの購入である。また、合成試薬としてジイソプロピルカルボジミドイ、ジメチルアミノピリジン、各種アミノ酸、水転用パラジウム触媒、透過型電子顕微鏡観察試料の染色剤であるオスミック酸を購入する。平成29年度は国際会議に出席するので登録費や出張旅費に充てる。
|