研究課題/領域番号 |
15K05625
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
板垣 秀幸 静岡大学, 教育学部, 教授 (10159824)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | シンジオタクチックポリスチレン / ゲスト分子 / 共結晶 / 配向結晶化 / 偏光蛍光強度回転角度分布法 / 導電性ポリマー / 広角X線回折 / PPO |
研究実績の概要 |
①シンジオタクチックポリスチレン(SPS)のε型結晶を高純度で作製する方法を開発し、ここにアニリン・チオフェンなどの複素環化合物をゲスト分子として導入し、さらに、ラジカル発生剤の溶解した水溶液に浸漬するだけで、ポリアニリンやポリチオフェンのような導電性ポリマーとすることに成功した。しかも、溶媒浸漬や溶媒曝露の条件を変化させ、例えばトリクロロエチレンを溶媒とするSPS溶液のキャストフィルムを利用することによって、SPSフィルム中のε型結晶を配向させたり、ε型結晶中の導電性ポリマーを配向させたりすることに成功した。②SPS結晶フィルムとしては、SPSとゲスト分子であるピリジン塩化銅の共結晶フィルムの作製と、その生成機構の解明に成果を得た。2位と4位のピリジン誘導体(置換基はアルキル基・ビニル基など)を比較した実験で、2位の官能基は4位の官能基と比べ、SPSとの包接型の共結晶化を妨げ、主鎖のコンフォメーション構造にも影響を及ぼすのに対し、4位に置換基を持つ場合はSPSとピリジン置換体塩化銅との共結晶化がおこりやすいことが明らかとなった。特に、安定な直線構造を形成する4-ビニルピリジンを配位子とした塩化銅(I)錯体は洗浄後もフィルム中に存在するほど強固な共結晶を形成した。一方、③結晶フィルム作製にはSPS物理ゲル状態の活用も重要と考え、SPS/イミダゾール誘導体ゲルやSPS/ピリジンゲルに水銀水をマウントしてゲスト複素環分子が水銀との錯形成を行うことなどを確認し、SPS結晶フィルムを用いた、今後のフィルター効果の研究に端緒を付けることができた。④他の耐熱性ポリマーであるポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)(PPO)を用いてブレンド化することに関しては、SPSとPPOの混合比の異なるブレンドフィルムの相溶性のよさが、蛍光スペクトルで確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ゲスト分子と共結晶すると知られているエンプラのシンジオタクチックポリスチレン(SPS)とポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)(PPO)を用いて、①有機金属錯体や蛍光性有機分子をゲスト分子として三次元的にフィルム全体にわたって間隔を空けて規則的に並べ、より実用性のある機能発現を提案することと、②PFR法などで精密に追跡することで、ゲスト分子交換法で機能性ゲスト分子を交換する際の配向制御を確立することであり、平成27年度は、(A)有機金属錯体をゲスト分子とするδ包接型・δインターカレート型・ε型の複数のSPS共結晶フィルムの作製、(B)SPS/PPOのブレンドフィルムの作製とこれらをゲスト分子液体に浸漬することによる共結晶化構造の解析、の2点を大きく展開したいとしていた。これらは、計画通りに進行し、ピリジン・金属塩錯体型ゲストのSPSδ型結晶フィルムを系統的に作製し、構造決定(WAXD・SAXS)・ゲスト含有量測定(FT-IR・TG-DTA)も行い、さらにSPS共結晶中のゲスト分子の反応挙動とそのときのSPS自体の構造変化についても明らかにしてきた。SPSとPPOの混合比の異なるブレンドフィルムごとに一軸延伸を行い、その相溶性を蛍光測定で追跡することもできた。ただし、SPS/PPOをゲスト分子溶媒に浸漬し共結晶化を試みる計画については、まだ十分な成果はない。PPOがゲスト分子と共結晶化するという論文を信じて開始したが、現状では、SPSで見られるような成功を収めていないので、平成28年度はこのあたりについて見極めを行いたいと考えている。全体的に当初の計画と同等あるいは同等以上に進行している印象が強いが、PPOとゲスト分子の共結晶化については不確実なので、現段階では、このように自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
大きく2つの目標を掲げたい。一つは、(A)SPSと共結晶させる導電性有機ポリマーや有機金属錯体の分子サイズと形の研究であり、(A)①SPSε型結晶中で重合させたポリアニリンやポリチオフェン誘導体の重合度情報や、(A)②金属サイズを変化させた有機金属錯体の配位や構造の限界を探ることを大きな目標として、種々の系を調べたいと考えている。このことにより、フィルム中のゲスト分子の反応性をより汎用的で、応用性の高い現象として取り扱えるように深化させたい。第二の目標は、(B)ゲスト交換法の限界を明らかにすることである。SPS共結晶中のゲスト分子は、第2のゲスト分子の蒸気曝露・液体浸漬・溶液浸漬などでこの第2のゲスト分子に交換可能であるが、この場合、(B)①第1のゲスト分子の包接されていたSPS結晶のフィルムに対する配向性が維持されるのかされないのか、(B)②維持されない場合、どの程度配向性が解消されるのか、を確認したい。この情報が明らかになれば、あるサイズまでの交換であれば、配向を維持できるなどの情報の元で、ゲストになりにくい分子をゲスト交換でSPSと共結晶させる処方箋が明確となるので、より機能性の高いシステムの構築を模索できるようになる。このゲスト交換の配向性をPFR法で行う。PFR法というのは、励起光ビームの回りにフィルムを一定角度回転させては、偏光励起で偏光蛍光強度を測定する方法で、蛍光分子や蛍光基の空間分布を求めることができる。一軸延伸するなどしたSPS/色素共結晶フィルムを別の蛍光色素溶液に浸漬時間を変えてゲスト交換させ、このフィルム中の交換前後の2種類の蛍光分子の配向性をPFR法で決定する。この際、交換前後の分子の組み合わせを変化させ、ゲスト分子の配向度が分子サイズや溶媒などでどのように変化するかを調べ、最適なゲスト分子交換条件を確定したいと考えている。
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