折りたたみ構造を有しない低分子量ポリヒドロキシ酪酸による結晶構造と水素結合の研究についてテラヘルツ分光測定、ラマン分光測定、赤外分光測定、および時間分解小角広角X線散乱(SAXS/WAXD)同時測定を行い、総合的に調べた。特に、分子量依存性についても結晶構造形成過程の違いや、分子鎖間に働くC-H---O=C水素結合の強さの違いについて検討した。その結果、水素結合の強さに関しては、どの分子量のPHBにおいてもほぼ同じであり、結晶構造にも違いは確認できなかった。しかしながら、結晶構造形成過程においては、この弱い水素結合の形成がPHBの分子量が2000-3000を境に、結晶構造を安定化させる働きをする場合と、分子鎖の整列させる駆動力になる場合に分類することができた。この分子量2000-3000の値は、ちょうどPHBの分子鎖の長さが、PHBがラメラ構造を形成したときのラメラ厚に相当するものである。つまり、PHBが結晶構造を形成する際に、分子鎖の折りたたみの有無によって弱い水素結合の役割が異なるのである。このことは、分子鎖が短く、結晶構造において折りたたみ構造を形成しない場合は、分子鎖が配向することで結晶構造を形成しており、分子鎖間の水素結合がこの分子鎖を結びつけて安定化させていると考えられる。そして、折りたたみ構造を有しない場合はラメラ構造が合体成長をすることが示された。また、折りたたみ構造を形成する場合には、まず水素結合が形成され、それが結晶ラメラの構造形成へと繋がっていくことが示された。
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