研究課題/領域番号 |
15K05631
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
山本 隆 山口大学, 理工学研究科, 教授 (00127797)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 高分子結晶化 / 分子シミュレーション / らせん高分子 / くし形高分子 / 流動加速 / トポロジー抑制 |
研究実績の概要 |
高分の結晶化を分子レベルで理解し制御することは、高分子材料設計の基礎である。近年、高分子結晶化メカニズムの解明において、分子シミュレーションは大きな貢献を成し遂げてきた。特に、単純な分子構造を有するモデル高分子の振る舞いの研究は飛躍的に発展した。しかし今後は、単純な構造を有するモデル高分子の研究から、現実の高分子の個性的で特異的な振る舞いの解明へと進化しなければならない。本研究では、個性的な振る舞いを示す螺旋高分子とトポロジカル高分子の結晶化に焦点を絞り、実験的にも手掛かりの少ないこれら高分子の結晶化のメカニズムを、分子シミュレーションによって明らかにすることを目指している。そこでは、緩慢な結晶化を如何にして加速するかという問題と、高分子のトポロジーが結晶化を巧妙に抑制する過程の解明という、二つの対照的な課題が焦点になる。 本年度は、主に流動場での結晶化の研究に力を注いだ。我々はこの課題に対して先駆的な研究を行ってきたが、我々の従来の研究では、用いたシステムサイズが十分でなく、結晶化における支配的な二つの過程(核形成と結晶成長)を明確に分離することが出来なかった。本年度の研究では、モデル線状高分子(ポリエチレン)および螺旋高分子(アイソタクチックポリプロピレン)夫々に対して、システムサイズを10倍から数倍程度拡大した系を用いて、流動場での結晶化初期過程の詳細な研究、および生成される繊維構造の解析を行った。 特異なトポロジーを有するくし型高分子の自己組織化の過程に関しても、様々な試行的な計算を始めた。先ず、くし型高分子と線状オリゴマー(n-alkane)の混合系の結晶化はうまく再現できること、くし型高分子がアルカン結晶化を巧妙に制御すること(wax inhibition)などを確認することが出来た。また、くし形高分子自体の融液からの結晶化の解明のための手掛かりも見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究プロジェクトでは、結晶化の制御に関して、以下の二つの大きなテーマを設定した。すなわち、結晶化の流動による加速(流動結晶化の分子機構の解明)、および結晶化のトポロジー制御、である。 ① 流動場での結晶化:既にモデル高分子および螺旋高分子の流動場での結晶化に関して先駆的な報告を行ってきたが、本年度は従来の研究結果をより確かなものとするために、大規模系での研究に取り組んでいる。線状モデル高分子の流動結晶化を系のサイズを十倍程度(7万原子系)に拡大して、結晶化における核形成と結晶成長を明瞭に分離評価し、流動場が夫々に対してどのような影響を与えるかを研究している。核の派生頻度、一次核の形体、結晶化温度・応力への依存性などのデータが集積され始めている。らせん高分子に対しては、流動場の観測は非常に有望な手法である。予備的な研究論文を発表したが、より大規模な系への挑戦により、螺旋高分子の結晶化の本核的な取り組みを始めた。 ②トポロジカル高分子の結晶化:以下の二点が現在の手掛かりである。 くし形高分子は低分子アルカンの結晶化を阻害することが古くから知られている(Wax inhibition)。我々は、モデル系(モデルくし形高分子+n-アルカン)を作成し、計算機を用いた結晶化の研究を始め、くし形高分子がアルカンの結晶化を明瞭に阻害することを確認した。くし形高分子単体の融解液からの結晶化は、計算機で再現することは難しい。しかし、結晶化が主鎖の柔軟さ・長さなどによって大きく影響されることを見出した。モデルの更なる改良とアルゴリズムの工夫に取り組んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
研究は概ね順調に進んでいる。二つの大きなテーマ①結晶化の流動加速、および、②結晶化のトポロジー抑制、に関して今後以下のような取り組みを行う。 ①結晶化の流動加速:流動場での高分子結晶化に関しては、計算データの収集が順調に進んでいる。特に、モデル高分子(linear polymer)に関しては大規模計算のデータ収集も完成に近く、解析を急ぎ、夏を目処に論文発表する。また、螺旋高分子(iPP)の大規模系でも、結晶化の兆しが見え始めており、データ解析を急いでいる。Istanbulでの国際会議(IUPACMacro2016)での発表に間に合わせたい。 ②結晶化のトポロジー抑制:トポロジカル高分子の秩序化は極めて緩慢な過程であり、その分子シミュレーションには大きな困難が立ちはだかっている。一年間の取り組みを通して、新たな手掛かりを見出したので、今後はこれらをもとに以下のような研究を進める。先ず、くし形高分子が低分子の結晶化を阻害することは古くから知られており、これをモデル化した系(くし形高分子+n-アルカン)に関しては興味深い予備的な計算データが得られた。今後は、モデルを洗練し系統的な研究を開始する。くし形高分子単体の結晶化シミュレーションは非常に難しい。しかし、主鎖の長さ・硬さ、側鎖の長さ・側鎖数、などが結晶化に大きな影響を与えることを見出したので、先ず、柔らかい主鎖に長い側鎖が付いた系での結晶化の系統的な研究(結晶化の平衡論・速度論)に挑戦する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定していた国際会議(Pacifichem2016 Hawaii)の旅費を、別項目の研究費で支出したため、旅費の残額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
今年度は既に国際会議(IUPAC Macro2016 Istanbul)に参加が決まっている。それ以外にも、米国化学会に参加を希望しているので、そのための旅費として使用したい。
|