高分結晶化の詳細な分子機構を解明することは高分子材料設計の基礎である。近年、様々な分子シミュレーション研究が大きな成果を挙げており、特に単純な分子構造を有する直鎖状高分子(ポリエチレンなど)の研究は飛躍的に発展した。本研究では、直鎖状高分子が示す結晶化挙動,特に流動場での配向結晶化と巨視的な繊維構造の形成過程の解明、および 非常に複雑で興味深い結晶化を示す螺旋高分子やトポロジカル高分子の結晶化における分子幾何学の効果の解明に注目した。 前者の直鎖状高分子に対しては、十分に大きなシステムにおける流動結晶化の分子動力学シミュレーションを行った。結晶化初期過程での特異な核形成機構とそれに続く結晶成長過程の詳細なメカニズム(特に成長の異方性)などを解明した。さらに、巨視的な繊維構造の発現過程を詳細に解析し、微結晶を結節点とする特徴的な分子ネットワークの形成過程を明らかにすることも成功した。成果は論文として発表した(2019年)。 より複雑な分子構造を有し興味深い結晶化挙動を示す螺旋高分子に対しても、非常に興味深い結果を得ることが出来た。らせん高分子が結晶を形成するときには、ミクロなキラリティ(分子鎖の右巻と左巻)が増幅され巨視的なキラル結晶が形成されると考えられるが、その分子機構は全くの謎であった。我々は大規模な分子動力学シミュレーションにより、キラル結晶の発現過程を直接観察することに成功し、現在その分子機構を解析している。裸のらせん高分子(ポリオキシメチレン)では、結晶化初期過程では明瞭な螺旋選択は行われず、キラル結晶の発現は結晶形成の後期過程での固相転移を経て完成されることを見出した。また、より複雑な螺旋構造を有するアイソタクチックポリプロピレンに対しても、流動結晶化による明確なキラル結晶の再現に成功した。これらに関しては現在論文を執筆中である。
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