研究課題/領域番号 |
15K05633
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松野 寿生 九州大学, 工学研究院, 准教授 (50376696)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | グリーンポリマー / 固体シート / 力学特性 / 分子鎖凝集構造 |
研究実績の概要 |
本研究では、デオキシリボ核酸(DNA)を用い、高伸縮性シートを開発する。本年度は、水和リン酸二水素コリン(CDP)を含有したシートを作製し、引張特性ならびに分子鎖の凝集構造および熱運動性について検討した。試料として、鮭・鰊精巣由来DNAを用いた。CDP含有DNAシート(以下DC)は、DNAとCDPの重量比を100/0から50/50の範囲で調整した混合水溶液から溶媒キャスト法に基づき作製した。DNAシートの引張特性は、CDP含有量に依存した。仕込み比90/10のDC10は、脆性を示した。一方、仕込み比80/20のDC20は、ひずみ0.1付近で降伏点に達した後、破断した。CDP含有量をさらに増加させると、DC膜は延性を示し、半結晶性高分子様からゴム状高分子様へと変化した。これらの引張特性は、少なくとも1週間は維持することができ、イオン液体を用いることで、DNAシート特性を安定化することができた。広角X線回折測定の結果、シート中のDNAは、未延伸下ではB型コンホメーションを維持し等方的に存在しており、延伸するとB型を維持しながら、延伸方向に配向することがわかった。動的粘弾性測定の結果、440、260および190 K付近において、E′の分散とE″の吸収ピークが観測された。440 K付近のピークは、CDPを含まないDNA固体膜において観測されたDNA主鎖のガラス転移と考えられる。260および190 K付近のE″ピークは周波数の増加に伴い、高温側にシフトした。各過程の活性化エネルギーから、260 K付近の緩和は水和DNAの協同的分子運動に、190 K付近の緩和はDNAのリン酸骨格のコンホメーション遷移に帰属された。DCシートでは、CDPがDNAのリン酸骨格に強く相互作用することでコンホメーション遷移を抑制している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DNAシートにイオン液体である水和リン酸二水素コリン(CDP)を導入した結果、シートの力学物性を大幅に改善することができ、種々の環境下において安定に使用できる可能性を見出した。また、延伸下での広角X線回折測定および動的粘弾性測定に基づき、分子鎖凝集構造および熱運動性の詳細な解析を達成することができ、基礎的知見を着実に蓄積できている。また、薬剤担持剤としての検討を進めており、徐放特性を変調できる可能性など機能特性についても進展しており、進捗は概ね順調と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
高伸縮・保水性を生かし、形状(伸縮)可変な生分解性薬剤担持シートとしての機能を評価する。DNAはその分子構造から種々の化合物と多様な様式で相互作用できる。任意の伸長度におけるDNAシートの薬剤担持および放出能を、色素化合物をモデルに用いて評価する。利点として、高保水性であることから脂溶性薬剤のみならず水溶性薬剤の保持・放出についても検討する。また、DNAシートの粘着特性について評価する。被着体として、各種セラミックスおよび高分子を用い、強度試験として、ラップシェア試験、引張試験を実施する。DNAシートの水分率、伸長度、周辺環境が粘着特性に及ぼす影響を整理する。これらの測定結果を包括することで、材料と強固な粘着を実現する含水DNA粘着シートを開発する。
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