研究課題/領域番号 |
15K05638
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研究機関 | 大阪成蹊短期大学 |
研究代表者 |
澤田 和也 大阪成蹊短期大学, その他部局等, 教授 (50393210)
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研究分担者 |
吉村 由利香 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, その他部局等, その他 (00416314)
藤里 俊哉 大阪工業大学, 工学部, 教授 (60270732)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ケラチン / 動物繊維 / ナノファイバー / バイオマテリアル |
研究実績の概要 |
本研究は、未利用のまま大量に廃棄されている動物由来繊維(羊毛や毛髪)から構成タンパク質を抽出して加工した上で、最終目標としてバイオマテリアルに応用することを目的としている。(本研究では、その原材料として特に毛髪に着目) 本研究代表者を含め、現在までの多くの先行研究により、羊毛繊維からケラチンを酸化的・還元的の両手法で効率的に抽出する手段の確立や、その特性評価は多数報告されている。一方、毛髪を構成するケラチンタンパク質は、その分子を特徴付けるジスルフィド結合数の相違、およびメラニン色素の含有量について羊毛と比較して大きな相違が存在する。さらに、このような毛髪由来ケラチンをバイオマテリアルとして応用化するため検証は殆どなされていない。従って、毛髪をバイオマテリアル応用の材料として考えた場合、毛髪由来ケラチンを、その本来の特性(分子量、分子構造)を損なうことなく効率的に抽出し、種々の加工(フィルム化およびナノファイバー化)を施す手段を確立することは極めて重要な初期ステップである。さらに、制作された構造体の物性を、羊毛由来のそれらと比較して検証することも、本研究を進めるための重要な基礎的知見と成り得る。そこで、初年度(平成27年度)においては、下記の2項目について焦点を絞り検討を行った。 ① ヒト毛髪より構成タンパク質であるケラチンを効率的に抽出し、それらをフィルム化およびナノファイバーとして再生繊維化する ② フィルム化およびナノファイバー化された羊毛・毛髪ケラチンの物性を評価し、両者の特性の相違に関する基礎的知見を得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前記、研究実績の概要欄に記載のとおり、2つの観点からみた項目について検討を進めた結果、以下の通りの研究が進捗している。 ①については、羊毛繊維と比較しながら酸化抽出法および還元抽出法の両手法による抽出を試み検討を実施した。その結果、還元手法による手段では抽出材料源の相違による両者の抽出効率や分子的性質には大きな差が見られなかったのに対し、酸化的手段については大きく異なることが判明した。すなわち、毛髪の場合は効率的なジスルフィド結合の切断とペプチド結合の切断が拮抗しており、分子量低下を引き起こさず抽出効率を維持する工夫の必要性が生じた。この課題については、酸化処理の条件(処理温度や濃度、時間等)を調整することによりその解決がなされている。一方、抽出されたケラチンのフィルム化においてはケラチン源および酸化・還元による手段差に有意差は見られなかったものの、ナノファイバー化においては、毛髪と羊毛との間で成否を左右する大きな相違が生じていた。すなわち、毛髪由来ケラチンのナノファイバー化においては、羊毛由来のそれに比べて、詳細な操作パラメータの設定が必要であり、現在その設定の最終段階を検討している。 ②については、フィルムにおける表面親水性評価、表面形態、強度について評価が完了している。一方、ナノファイバーについては前記のとおり、毛髪由来ケラチンのナノファイバー化パラメータの検証を継続しているため、その結果を受けらながら随時検討を実施している。 以上の進捗状況を総合的に勘案した場合、毛髪由来ケラチンのナノファイバー化において、当初の想定を超える検討項目が必要となっているものの、全体の初年時達成目標は概ね実施できている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
初年時においては、前記のとおり毛髪由来ケラチンのナノファイバー化において検討項目の追加による、若干の検討の遅れが生じているが、最終目的を達成するための重要な基礎研究である。従って、今後の研究方策等に変更はなく以下の通りの計画である。 平成28年度:毛髪および羊毛の酸化・還元ケラチンから種々の条件でナノファイバーシートの作成を試み、同上での細胞親和性(接着性や増殖性)制御を試みる。この検討において、毛髪由来の色素(メラニン)や特定官能基(ジスルフィド結合由来)の影響を合わせて評価する。さらに、本研究課題の応用ターゲットとしている癒着防止シート作成を目指すため、フィルムとナノファイバーの層状複合化を試み、特性の異なる層状シートの開発を試みる。 平成29年度:癒着防止シートとしての評価を行うため、既市販同目的素材と比較しながら、小動物に対する埋入実験と評価を行う。これらの結果をもとに、本研究による材料の改善を図ることを繰り返し、既存同材料を超える特性を得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
分担研究者による物性評価実験のために予算を充てていたが、本研究代表者の所属機関既設の装置等の使用で実施することが可能であり、分担研究者からの助言のみで進めることが可能であった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に、本研究代表者が主催する国際学会への参加登録関連、および実験実施における必要試薬の購入のために充てる予定である。
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