研究課題/領域番号 |
15K05639
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
川本 益揮 国立研究開発法人理化学研究所, 伊藤ナノ医工学研究室, 専任研究員 (70391927)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | パイ共役ポリマー / 光熱変換 / ヘテロ接合 / ナノ粒子 / クロミズム |
研究実績の概要 |
側鎖の熱脱離を誘起するパイ共役ポリマーの合成に成功した。ポリチオフェンの側鎖にアルコキシ,オリゴエチレンオキシド,あるいはジメチルアミノ基を有するポリチオフェン誘導体を合成した。得られたポリマーは,テトラヒドロフランや N,N-ジメチルホルムアミド,エタノール等の汎用有機溶媒に可溶であった。熱重量分析,質量分析の結果より,これらのポリマーは加熱によって側鎖の脱離反応を生じ,最終的にポリチオフェンへ変換されることがわかった。また,固体NMR スペクトルからも加熱後のポリマーは,側鎖が脱離していることを確認した。 これらの結果をふまえ,スピンコートによって成膜したポリマーの熱脱離挙動を検討した。加熱前のポリマーは 460 nm 付近に極大吸収波長を示すオレンジ色のフィルムであった。一方,加熱後のポリマーフィルムは黄色へと変化した。色の変化は吸収スペクトルにも現れ,加熱後のフィルムは極大吸収波長が短波長側へシフトし,かつ吸光度が減少した。また,大気下光電子分光測定より,加熱後のポリマーは加熱前のポリマーに比べ HOMO 準位が深くなることがわかった。以上の結果より,色の変化は側鎖の脱離によってチオフェンの電子状態が変化することで生じたものと考察した。また,加熱後のポリマーフィルムは側鎖の脱離によって溶解性を失い,あらゆる汎用溶媒に対して不溶となった。この結果は,熱処理によってポリマーフィルムの溶解性を制御できることを示している。今後,光で熱脱離反応を誘起し,導電パターニングの形成を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度見いだした多刺激クロミズム応答を示すポリチオフェンナノ粒子について,成果をまとめることができた。一方,熱変換型パイ共役ポリマーの開発に成功しているものの,光による導電パターニング形成に関する検討がやや遅れている。今後,光熱変換特性を有する p, n 型ポリマーを用いたヘテロ構造の形成とその光・電子物性に関する研究を推進する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた知見を利用し,光熱変換応答を利用した導電パターニングの形成とpnヘテロ接合化を検討する。溶液プロセスによって得られたヘテロ構造体の確認に X 光電子分光装置,ケルビンプローブフォース顕微鏡,共焦点顕微鏡,透過型電子顕微鏡等を用い,膜の表面,内部の構造観察をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた光源について選定をおこなった。しかし研究で使用するには出力が小さく,購入を断念したため。
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次年度使用額の使用計画 |
本課題で使用するに足る出力の光源に関する情報を得ることができたため,本年度に購入する予定である。購入後,光熱変換反応に関する検討をおこなう予定である。
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