研究実績の概要 |
太陽光エネルギーを利用した半導体光電極による水分解システムは、低炭素社会の実現のための理想的な水素製造技術である。リン酸銀光触媒は、540 nm付近までの可視光を吸収できるため、効率的な太陽光利用が期待できる。しかし、リン酸銀は光触媒反応中に金属銀への自己還元が起き、安定性に乏しい。そこで本研究では、ナノ構造が制御されたリン酸銀結晶を銀基板表面上に直接成長させた後、イオン交換法により臭化銀が担持された光アノード電極の調製を行うことで、安定性の向上を目指した。本年度は、ナノ構造が制御されたままリン酸銀表面に臭化銀を担持する方法を模索した。臭化銀の担持はイオン交換法で行い、その際のPVP濃度、NaBr濃度および反応時間等の最適化を検討し、薄膜表面をSEM観察した。その結果、種々のパラメーターを最適化することで、リン酸銀の元の形態を保ったまま、表面に臭化銀を担持することに成功した。得られた薄膜のX線回折分析を行った。得られたXRDパターンは、リン酸銀と臭化銀の両方に帰属される回折を示した。このことから、リン酸銀上に臭化銀が担持されていることが示された。EDX分析をしたところ、Br/P比は、ほぼ理論値通りであった。紫外可視拡散反射スペクトルを測定したところ、薄膜の吸収端は、リン酸銀と臭化銀のそれの間に位置していた。バンドギャップを見積もったところ、おおよそ2.47 eVであった。薄膜のXPS測定を行った。サーベスペクトルからは、Ag, P, Br, Oのみの元素が検出され、それ以外の元素は検出されなかった。銀のXPSナロースペクトルを測定したところ、銀の化学状態はAg+であり、薄膜調製段階において、銀イオンが金属銀に還元されることはないと考えられる。以上の結果より、銀基板上にナノ制御されたリン酸銀結晶を析出させることに成功し、さらにその形態を崩すことなく、リン酸銀上に臭化銀を担持する方法を確立することが出来たと考えられる。
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