太陽光エネルギーを利用した半導体光電極による水分解システムは、低炭素社会の実現のための理想的な水素製造技術である。リン酸銀光触媒は、540 nm付近までの可視光を吸収できるため、効率的な太陽光利用が期待できる。しかし、リン酸銀は光触媒反応中に金属銀への自己還元が起き、安定性に乏しい。そこで本研究では、ナノ構造が制御されたリン酸銀結晶を銀基板表面上に直接成長させた後、イオン交換法により臭化銀が担持された光アノード電極の調製を行うことで、安定性の向上を目指した。本年度は昨年度に引き続き、調製した光アノード電極の評価を行った。分光感度(IPCE)は、入射した光(単色光)のうち光電流に変換された割合を示すものであり、光電極の光電変換特性を決定する上で極めて重要である。印加電圧が増加すると各波長でのIPCEの値も増加した。また、IPCEは可視紫外吸収スペクトルと類似した形となり、約520 nm付近から立ち上がりが見られた。この結果より、調製した薄膜光電極が光エネルギーを効率的に電気エネルギーに変換できていることが判明した。また、光電極を用いた光電気化学的実験で生じる水素の生成量を調査した。印加電圧が増加すると水素生成量も増加した。40分までは100%のファラデー効率と仮定した時に測定される光電流値から計算した水素生成量とほぼ一致した。40分間光電極に光を照射しても光電流密度の値は一定であった。また、光の照射・非照射を繰り返したところ、4回のサイクルにおいて光照射時には安定した電流値が得られた。
|