研究実績の概要 |
これまでに使用されてきた無機赤色顔料には、カドミウム赤、鉛丹、辰砂などがあるが、これら既存の顔料中には、カドミウム、鉛、水銀などの強い毒性を示す金属が含まれている。このため、人体や環境に対する悪影響が懸念されることから、世界各国において、これらの顔料にとって代わるような環境に優しい新しい顔料の開発が強く求められている。実際、世界保健機関(WHO)も、玩具や家具に使われる鉛入り塗料が劣化し、粉末になったものを吸い込むことにより、世界全体で毎年14万3千人が死亡し、知的障害者となる子供が毎年60万人以上にのぼると指摘している。そこで本研究では、人体に有害な元素及び環境に対する負荷の大きい元素を含まない無機赤色顔料の開発を目指した。 平成28年度は、赤色顔料の母体となる新たな材料として、AY2O4(A = Ca, Sr, Ba)に着目し、これらの複合酸化物にCe3+を固溶させた試料を合成し、それぞれの色を評価した。その結果、SrY2-xCexO4(0≦x≦1.2)試料のみが単相で得られ、Ce3+濃度の増加に伴い白色から赤褐色に変化することを見いだした。中でもSrYCeO4の組成において赤色度が最も大きくなった。そして、これらはCe3+の4f-5d遷移により可視光領域の波長の一部を吸収することによる発色であることを明らかにした。最終年度は、さらにイオン半径の小さいSc3+を含むASc2O4(A = Ca, Sr, Ba)にCe3+を固溶させ、赤色度の向上を目指す。
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