研究実績の概要 |
従前の無機赤色顔料には、カドミウム赤、鉛丹、辰砂などがあるが、これらには、カドミウム、鉛、水銀などの強い毒性を示す金属が含まれている。人体や環境に対する悪影響が懸念されることから、世界各国において、これらにとって代わるような環境に優しい新顔料の開発が強く求められている。世界保健機関(WHO)も、玩具や家具に使われる鉛入り塗料が劣化し、粉末になったものを吸い込むことにより、世界全体で毎年14万3千人が死亡し、知的障害者となる子供が毎年60万人以上にのぼると指摘している。本研究では、人体に有害な元素及び環境に対する負荷の大きい元素を含まない無機赤色顔料の開発を目指した。 平成29年度は、昨年度に開発した、SrY2-xCexO4(0≦x≦1.2)赤色顔料の発色機構の解明を目指し、粉末X線回折のリートベルト解析により結晶構造パラメータを精密化した。その結果、SrY2O4の結晶構造中には、非等価な二つのY3+サイトが存在し、Ce3+の濃度が低いときCe3+イオンはエネルギー的に安定で理想的な八面体を形成しているY3+サイトに優先的に固溶し,Ce3+の濃度が高くなると歪んだ八面体を形成しているY3+サイトにCe3+イオンが固溶しはじめることを明らかにした。開発顔料において、Ce3+は4f-5d軌道間の許容遷移により可視光の一部を吸収するが、前者のY3+サイトと後者のそれでは結晶場の強さが異なるために、Ce3+濃度の増加に伴い白色から赤褐色に変化することを明らかにした。さらにイオン半径の小さいSc3+を含むASc2O4(A = Ca, Sr, Ba)にCe3+を固溶させ、赤色度の向上を目指したが、単一相が得られずに赤色度も向上しなかった。 また、赤色顔料の開発において、派生的にBa(Zn,Co)2Si2O7が青紫色を、BaTbO3が黄色を呈することを見いだした。
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