研究課題/領域番号 |
15K05645
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
大久保 貴広 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (30385554)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナノカーボン / 陰イオン吸着分離 / 水和イオン / ミクロ孔 / XAFS |
研究実績の概要 |
従前までに、ナノ空間(主に細孔径2 nm以下のミクロ孔)を多量に含有する活性炭をアルカリ金属のハロゲン化物(たとえばRbBr)水溶液中に分散させてイオンを吸着させると、電荷バランスに反してアニオン種(Brイオン)がカチオン種よりも10~100倍以上も多く吸着する現象を見出した。通常、炭素材料の表面電荷はマイナスであるため、カチオンの方が強く引き付けられると想像できるが、この考えを覆す結果である。本研究は、炭素材料に対する陰イオンの選択的吸着メカニズムの解明を図り、その知見を活かした陰イオンの選択的な吸着と分離が可能な炭素材料の設計・創製を行うことを目的としている。平成27年度には、単層カーボンナノチューブ(SWCNT;平均細孔径1.3 nm)の末端を自在に開閉する方法を確立し、チューブ状細孔内部で形成される吸着相の密度を正確に求める方法論を確立すると共に、細孔の表面にプロトンの吸着相が形成されることでBrイオンが特異的に吸着できる場が形成されることを見出した。平成28年度は、炭素材料のナノ空間内にアニオン種がその対イオンよりも過剰に吸着される際に影響を及ぼす諸因子について検討を行った。その結果、SWCNTを用いてRbBrの吸着実験を行った結果、Brイオンの吸着量を細孔の空間容量で割ったBrイオンの吸着密度を算出すると、活性炭の細孔内(0.31 mol/L)に比べてSWCNTの細孔内(3.8 mol/L)の方が10倍以上も高いことがわかった。この結果は、細孔の幾何構造の違いを反映していると思われるが、詳細なメカニズムについては平成29年度の研究を通じて明らかにする予定である。一方、Brイオンの対イオンを他のアルカリ金属イオンに替えた場合、Brイオンの吸着量に与える影響は小さいことがわかり、カチオン種の価数やサイズがアニオン種の吸着に与える影響を引き続き検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度の研究を通じて、SWCNTの細孔内におけるBrイオンの吸着密度が活性炭の細孔内に比べて10倍以上大きいという、当初予想もしていなかった結果を得ることができた。当初予定をしていたBrイオンの対イオン種が与える影響については必ずしも予定どおり進んではいないものの、SWCNTの細孔がアニオンの吸着に対して特別な場を提供する可能性を発見できた点は非常に興味深い。SWCNTは理論計算においてもモデル化が容易であり、平成29年度は量子化学計算も駆使しながら、Brイオンの吸着状態の解明を図る予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の目標の一つに、炭素材料へのBrイオンの吸着に与えるカチオン種の影響について検討することを挙げていたが、カチオン種の吸着量を再現性良く見積もることが困難であった。最終年度となる平成29年度において、アルカリ土類金属イオンを中心に用いて、カチオン種とアニオン種との関係解明を図りたい。また、平成29年度は、Brイオンの以外のハロゲン化物イオン、および化学の中で代表的な陰イオン(硝酸イオン、硫酸イオン)の吸着特性に関する検討も行う。 更に、SWCNTの細孔内におけるBrイオンの吸着密度が活性炭の細孔内に比べて10倍以上大きいという、予想もつかない結果を得ることができた。SWCNTは理論計算においてもモデル化が容易であり、平成29年度は量子化学計算も駆使しながら、Brイオンの吸着状態の解明を図る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の一部に進展があり、試料の購入に充てる目的で前倒し支払い請求をさせてもらい、研究に不可欠な試料のみを購入したために余剰金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度における余剰金は、本来であれば平成29年度に使用予定であったことからも、当初の予定どおり試料購入費の一部として充当する予定である。
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