本研究課題は、非晶質構造解析に基づく構造異方性の評価、弾性率測定に基づく物性異方性の評価、および異方性ガラスの構造モデル構築を主要な実施項目としており、平成29年度においては、前年度までの研究実施項目を継続して分子動力学シミュレーションによる異方性ガラスの構造モデル構築を行い、加えて、圧縮応力変形による異方性ガラス試料の作製と共振法による弾性率異方性の評価に取り組んだ。 分子動力学シミュレーションでは、リン酸カルシウムの組成として、Q1、Q2およびQ3構造単位をそれぞれ主体とする67CaO-33P2O5、50CaO-50P2O5、100P2O5を選択し、各組成のガラス構造モデルにおける伸張変形に伴う構造異方性の起源を調査した。PO4四面体の配列に異方性が明確に生じるのは、Q1およびQ2構造単位によるガラス構造であることを明らかにするとともに、後者では、網目修飾イオンであるCa2+の配列にも異方性が生じる一方で、前者のCa2+の配列の異方性は明確ではないことを示した。 ガラスに対して熱間圧縮変形処理を行い異方性メタリン酸カルシウムガラスを得たが、それらのX線回折法および偏光ラマン散乱法による構造解析では、構造異方性を示す明確な結果は得られなかった。誘起された構造異方性が緩和しないように変形時の諸条件を検討する必要があることが示唆された。一方で、共振法による弾性率測定では、熱間圧縮変形処理したガラスで共振ピークの分裂が確認され、直交異方性を仮定した場合に予想される共振スペクトルとの比較から異方性を見積ることが可能になった。ただし、現時点では分裂した共振ピークのすべてを帰属するには至らず、異方性試料の作製手法および解析手法の両面からさらなる高度化が必要である。
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