研究課題
備前焼作家により制作された金彩備前焼について、表層の結晶相について粉末X線回折および透過型電子顕微鏡観察により検討した。金色は、これまで燃料として用いられる赤松に含まれる炭素が作品表面に付着し、この炭素膜による干渉色によると考えられてきたが、炭素は検出されず、厚さが約100nmの酸化鉄(ヘマタイト、α-Fe2O3)が表面に生成していることが明らかとなった。また、メスバウアー分光測定においても、ヘマタイトの生成を確認した。このヘマタイトとガラス相の散乱光により金色に見える可能性があることがわかった。金彩および銀彩備前焼を制作されている備前焼作家に、金属光沢模様が現れやすい焼成条件について聞き取り調査を行った。稲わらを巻いた作品を登り窯にて酸化雰囲気下で昇温した後、過剰の薪または炭を加え、還元雰囲気下で冷却すると金彩や銀彩模様が現れやすいことがわかった。よって、備前焼表面の金属光沢は、稲わらと反応して生成した液相中に酸化鉄が析出することにより現れると考えられた。作家による焼成条件を基に、電気炉にて再現実験を行った。稲わらの主成分はシリカ(SiO2)であるが、カリウムが約13wt%含まれており、カリウムが備前焼粘土と反応してガラス相が形成すると考えられる。そこで、稲わらの代わりに炭酸カリウム(K2CO3)を用い、大気中にて1230℃まで昇温後、アルゴンガスに一酸化炭素を10%混合したガス中で冷却を行った。現在、生成相の検討および熱処理条件の最適化を行っている。
2: おおむね順調に進展している
実験計画通り、おおむね順調に進展している。昨年度は銀彩備前焼表面に生成している結晶相を特定し、今年度は金彩備前焼表面に生成している結晶相を特定した。更に、作家による焼成条件が明らかとなり、再現実験を進めている。以上の結果から、平成28年度の目的はおおむね達成できたと判断した。
平成29年度は、昨年度に引き続き、金彩および銀彩備前焼の呈色構成相の詳細を電子顕微鏡観察、粉末X線回折、メスバウアー分光測定により検討する。更に電気炉にて再現実験を行い、得られた試料について生成相および微構造を検討する。また、作家により作製された金彩および銀彩備前焼と比較検討する。
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Inorganic Chemistry
巻: 55 ページ: 5747-5749
10.1021/acs.inorgchem.6b00947