キラルな配位子を有する希土類錯体は、発光における左右円偏光成分に強度差が生じる円偏光発光(CPL)や左右円偏光に対する吸収強度差が生じる円偏光二色性(CD)を示し、配位構造の違いによりそれらの特性を変化させることが可能であり、新規な光機能性材料への展開が期待される。これまで我々は、発光性ユウロピウム(III)錯体(Eu(III)錯体)と電気化学的な酸化還元反応により可逆な色変化を示すエレクトロクロミック(EC)材料を組み合わせた系において、電気化学的刺激による発光と着色の制御を実現してきた。しかし、CPLやCD特性の制御を含めた多機能制御は実現していない。そこで本研究では、キラルEu(III)錯体のCPLを電気化学的に制御することを目的とした。 前年度までに、キラルEu(III)錯体とEC材料の組み合わせにおいて、EC材料の着消色に誘起されたCPLを含む赤色発光の制御、およびEC材料の着色体の吸収においてCDシグナルの発現を見出した。 電気化学的発光制御の検討の中で、キラルEu(III)錯体のCPLが共存電解質の濃度や種類によって大きく依存することを新しく見出した。詳細な発光制御解析に向けてはこれらの機構解明が不可欠なため、今年度は電解質種がキラルEu(III)錯体のCPLを含む発光特性にどのような影響を与えるのかを検討した。共存電解質としてアルキルアンモニウムイオンを添加すると、Eu(III)錯体の発光強度が大きく増強をすることを見出した。アルキル鎖の鎖長によって異なるが、未添加の場合と比較して実に70倍もの発光増強が引き起こされる場合があることが明らかとなった。そのような発光増強に対応してCPL強度も飛躍的に増加し、0.6程度の大きな発光円偏光度を実現した。
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