29年度は,①ハードウェア的なアプローチとして電流検出型ESR装置荷より信号を検出すること,および,②物質開発的なアプローチとして,時間分解ESR法によりTTFーニトロキシド混晶作成・機能性メカニズムを解明することが課題である. 28年度までに,弱いながら信号の検出に成功した.29年度は,信号のS/N比を向上させることである.そこで,磁場変調周波数を低くするために,①研究室で所有する旧型ESR装置を立ち上げて磁場変調周波数~1kHzとし,②電流―電圧プリアンプを使用し,③検出用の電源にローパスフィルタを入れることで電源ノイズの低減荷より信号のS/N比の向上を試みた.以上の3点により,ダイオードの格子欠陥に由来する信号はわずかながらS/N比の増大することができた.このことより,電流検出型ESR信号を測定することは可能となったと言える. 次に時間分解ESR測定により電荷分離状態生成メカニズムの解明を試みた.28年度までに,連携研究者の合成した連結型TTF誘導体の光誘起機能性メカニズムを調べるために時間分解ESR測定を行なったところ,分子間電荷分離状態が起源であることを見いだした.そこで,次のステップとして,TTF分子とニトロキシドラジカル分子(PROXYL)との混晶でも同様の現象を見いだすことを目的として,TTF-PROXYL混晶の作成および時間分解ESR測定を行なった.TTFとPROXYLを液-液拡散法にて混晶の作成を試みた.粉末X線回折により,混晶が作成されていると判断できた.電気的に中性な物質群であるため良質な単結晶を作成することが困難で結晶構造を決定には至らなかった.得られた混晶で時間分解ESR測定を行なったところ,分子間電荷分離状態に帰属出来る信号を得た.このことから,TTFとニトロキシド系における光誘起機能性の発現は,分子間電荷分離状態に由来することを明らかにした.
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