●コロネン、ピレン、スマネン、コラヌレンの4種類の多環芳香族炭化水素(PAH)分子のカーボンナノチューブ(CNT)への内包過程と自己組織化によって形成される積層構造の形態を分子動力学シミュレーションによって調べた。各PAH の融点付近でPAH雰囲気を作成しこの中にCNTを配置すると、PAH分子はCNT内に自発的に内包される。PAH分子は内包されると2個がペアとなったダイマーを形成しやすい。このダイマーはCNT内を動き回り、しだいにCNTを満たしてダイマー列を形成する。お椀型PAH分子の場合にはダイマー列がそのまま積層構造となるが、平面状PAH分子のダイマー列はCNTの端からPAH分子の回転が起こり、これがトリガーとなって規則的な積層構造が徐々に形成される。規則的な積層構造が形成されるようなCNTの直径の範囲はPAH分子の大きさによって決まり、PAH分子の傾斜角は幾何学的拘束条件に基づく半解析的近似式によってよく表される。
●sp3層間結合によるグラフェン/hBNヘテロ二層の熱伝導度低減を非平衡分子動力学シミュレーションによって調べた。sp3層間結合がわずかでも存在すれば、ヘテロ二層の熱伝導度は急減し、その後sp3層間結合分率の増加とともに漸減するが、sp3層間結合分率0.25で最小値をとった後に漸増し始める。sp3層間結合は欠陥と同様にフォノンの散乱中心として作用するため、その分率が小さいうちはヘテロ二層の熱伝導度を低減させる。一方、sp3層間結合はその分率が増加するにつれてファンデルワールス力に替わる二層間の締結要素としての機能が増大し、ヘテロ二層はファンデルワール構造から準三次元構造に変化しその剛性が増加するため、ヘテロ二層の熱伝導度は増加し始める。このことは、sp3層間結合分率の増加に伴い準三次元構造に特有なフォノン状態密度のピークが現れることから確かめることができる。
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