研究課題/領域番号 |
15K05677
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
菊池 将一 神戸大学, 工学研究科, 助教 (80581579)
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研究分担者 |
中井 善一 神戸大学, 工学研究科, 教授 (90155656)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | チタン / 粉末冶金 / 金属疲労 |
研究実績の概要 |
金属材料の強度は、結晶粒のサイズを小さくすることにより上昇するため、これまでは「均一かつ微細な結晶粒」を創製する観点から研究が進められてきた。しかし、結晶粒を微細化すると金属の延性は低下し、金属の高強度化と高延性化を両立することは困難である。したがって、従来の「均一・微細」アプローチでは、強度と延性はトレードオフの関係にあり、真の高機能化が達成されていないのが現状である。 当該年度は、前年度に作製した、粗大粒組織の周りにネットワーク状の微細粒組織を有する「ヘテロ構造チタン」の疲労特性について検討を加えた。具体的には、粉末冶金により作製した焼結体(直径25 mm)から小型の板材サンプルを切り出し、4点曲げ疲労試験を実施することにより、応力振幅と疲労寿命の関係を調べた。その結果、「ヘテロ構造チタン」は、初期粉末焼結体と比較して高い疲労限度値を示すことが明らかとなった。さらに、この要因について微視組織分析結果や引張試験結果を基に考察を行い、微細粒組織の存在によってチタン合金の強度特性が改善されることを明らかにした。しかし、微細粒組織の形成割合が増加すると、引張強さは増加するものの、疲労限度値は低下することを明らかにした。 特異な組織を有する「ヘテロ構造チタン」の疲労破壊メカニズムについても検討を行い、ヘテロ構造内の粗大粒組織を起点に疲労き裂が発生することを明らかにした。また、き裂発生を誘発させた組織の結晶方位を調べた結果、チタンのhcp構造の底面が認められたことから、破壊メカニズムは従来のチタンと相違ないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度において、「ヘテロ構造チタン」を作製するために必要なメカニカルミリングの施工条件の明確化、チタン合金の高強度化・高延性化を達成した。さらに、「ヘテロ構造チタン」の長いき裂の伝ぱ特性を明らかにした。さらに、「ヘテロ構造チタン」の微視組織分析結果やき裂経路観察結果と関連付けて疲労き裂伝ぱ抵抗の低下要因についても考察を行った。 当該年度は、高強度・高延性を示す「ヘテロ構造チタン」に対して4点曲げ疲労試験を行うことにより、応力振幅と疲労寿命の関係を調べた。その結果、ヘテロ構造内の微細粒組織の存在により、疲労限度値が上昇することを明らかにした。なお、メカニカルミリング時間が長すぎると(本研究の範囲では100時間)、チタン合金の延性が低下してしまい、高応力域における破断寿命が短くなる。適切なメカニカルミリング条件を選定することにより、チタン合金の高疲労強度化を達成することが可能となった。以上より、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き「ヘテロ構造チタン」の損傷を時系列に評価するため、疲労特性について検討を加える予定である。現在は、「ヘテロ構造チタン」の疲労き裂伝ぱ特性や疲労限度値を調べるのみならず、疲労き裂発生挙動についても検討を加えている段階にある。そのため、4点曲げ疲労試験を所定の繰返し数で中断させ、レプリカ法を用いて「ヘテロ構造チタン」の疲労き裂発生寿命の特定や微小き裂の伝ぱ挙動を明らかにしつつある。 その際、ヘテロ構造内の微細粒と粗大粒の形成割合を変化させた複数のサンプルを作製し、疲労寿命に及ぼす微細粒組織の形成割合について検討を加える。微細粒組織の形成割合が高い場合にはき裂発生抵抗は増加するものの、その一方で疲労き裂伝ぱ抵抗は低下すると予想される。微視組織分析結果と関連付けて、「ヘテロ構造チタン」の損傷過程におけるき裂発生・進展の割合を明らかにする。 また、これまでは試験力制御の「高サイクル疲労試験」を実施していたが、ヘテロ構造に塑性ひずみを与えるような「低サイクル疲労試験」の準備も進めている。これらの結果を統括し、広範囲の寿命域にわたり材料損傷を時系列に評価することによりヘテロ構造が高機能を発現する力学条件を明らかにする。最終的には、ミクロ構造分析やミクロ変形挙動の評価に関する実験結果と合わせ、ヘテロ構造チタンの「ミクロ・マクロ変形⇒き裂発生⇒き裂進展⇒破断」の一連の現象をモデル化する。
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