金属材料の強度は、結晶粒のサイズを小さくすることにより上昇するため、これまで「いかに均一かつ微細な結晶粒を作るか」という観点から研究が進められてきた。しかし、結晶粒を微細化すると金属の延性は低下し、金属の高強度化と高延性化を両立することは困難である。したがって、従来の「均一・微細」アプローチでは、強度と延性はトレードオフの関係となるため、真の高機能化は達成されない。 前年度に作製した、高強度・高延性を両立する「ヘテロ構造チタン」に対して、当該年度は疲労き裂の発生・伝ぱメカニズムについて検討を加えた。レプリカ法を併用した4点曲げ疲労試験を行った結果、粗大粒組織の周りにネットワーク状の微細粒組織を有する「ヘテロ構造チタン」の疲労き裂発生寿命は、従来チタンと比較して長いことを明らかにした。これは、チタン粉末に対してメカニカルミリングを施す際に、チタンの結晶粒が微細化したためである。さらに、EBSDを用いた結晶方位解析を行うことにより「ヘテロ構造チタン」の疲労破壊起点は、底面配向の粗大結晶粒組織であることを明らかにした。 次に、「ヘテロ構造チタン」における微小疲労き裂の伝ぱ特性について検討を加えるため、応力拡大係数範囲ΔKとき裂伝ぱ速度da/dNの関係を求めた。その結果、「ヘテロ構造チタン」のき裂伝ぱ速度は、従来のチタンと比較して同程度であった。以上の検討結果を統括し、ヘテロ構造制御によるチタンの疲労特性改善は、疲労き裂の発生抵抗増大に起因することを明らかにした。
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