研究課題/領域番号 |
15K05687
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大宮 正毅 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (30302938)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高分子アクチュエータ / 薄膜 / 損傷 / 疲労 / 破壊 / 電気化学 |
研究実績の概要 |
イオン導電性高分子アクチュエータは,電解液中で電場を印可すると水和したカウンターイオンが陰極に移動し,陰極側が膨潤,陽極側が収縮することで湾曲する特徴を持つ.本研究では,イオン導電性高分子の陽イオンと水分子の移動に着目し,長時間繰返し変形をさせた場合の変形応答性の変化について実験的に測定するとともに,高分子電解質膜と電極金属における機械的および電気化学的損傷について調査し,損傷メカニズムを解明することを目的としている. 平成27年度は,繰返し変形を与えた際の変形応答の変化について調査した.パラジウムめっきを電極とした矩形状のイオン導電性高分子アクチュエータを製作し,一端を電極治具で固定し,他端を自由端とし,振幅3Vの正弦波状の電圧を印可し動作させた.そして,5000サイクルごとに固有振動数を測定し,電極のヤング率を求めた.その結果,サイクル数が20000サイクルまでは単調にヤング率が低下するが,その後はヤング率がほぼ一定になることがわかった.さらに,電極金属表面にき裂が発生し,サイクル数とともにき裂が成長していることが確認された.このことから,アクチュエータの変形特性が劣化する原因は,主に,電極金属のき裂成長によるものと考えられた. 次に,パラジウムめっきを施す際に高分子電解質膜に化学的損傷を与える可能性を考慮して,化学的損傷を与えた高分子電解質膜の破壊抵抗について調査した.鉄イオンを含む溶液中に過酸化水素水を入れ,高分子電解質膜を80℃,24時間処理することで化学的損傷を与えた.その後,矩形状の試験片を切り出し,両側にき裂を導入し,温度・湿度を制御しながら引張試験を行った.そして,き裂長さを種々変化させて,破壊エネルギーを求めた.その結果,化学的処理を行った試験片では,室温下では約40%破壊強度が低下し,高温下では約87%破壊強度が低下することが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では,イオン導電性高分子アクチュエータを構成する薄膜の環境制御疲労試験を実施する予定であった.現状では,環境制御型疲労試験装置は完成し,それを用いた疲労試験の実施,疲労き裂進展特性についての結果がそろいつつある状況であり,多少,計画が遅れている.しかし,イオン導電性高分子アクチュエータの電極部分の損傷形態について明らかにした点,高分子電解質膜の化学的損傷による強度劣化について把握できた点は今後の研究の進展につながる成果であり,全体的にはおおむね予定通り推移していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
現状,環境制御型疲労試験装置が完成し,それを用いた高分子電解質膜の疲労試験,疲労き裂進展特性評価試験を行っており,継続して実験を行い,成果を論文にまとめる. 平成28年度は,陽イオン種や温度,pHなどの条件を変えて実験を行うために,水溶液中で高分子電解質膜の疲労試験が行えるように試験機を改良する.また,疲労試験後の試験片の電子顕微鏡観察による表面・破面分析行うことで,機械的損傷のメカニズムを検討する.一方,陽イオン種,温度,pHなどパラメータを種々変化させて,イオン導電性高分子アクチュエータの耐久試験を行い,変形特性に影響を及ぼす支配因子を特定する.また,サイクリックボルタンメトリー(CV)測定,X線光電子分光法による電極金属の成分分析を行い,電極金属における電気化学的反応を特定し,電極金属における電気化学的な損傷メカニズムについて明らかにする.さらに,高分子電解質膜のインピーダンス測定により,機械的・電気化学的損傷が及ぼす高分子電解質膜中の陽イオン易動度への影響についても検討を加えていく.
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