研究課題/領域番号 |
15K05694
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
細井 厚志 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (60424800)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | き裂治癒 / 疲労 / 金属 / き裂進展 |
研究実績の概要 |
本研究では,オーステナイト系ステンレス鋼SUS316におけるき裂治癒における最適熱処理条件の検討および,き裂治癒界面近傍の元素マッピングや数値解析によるき裂治癒メカニズムの検討を行った.その結果,以下のことを示した. (1)真空下での熱処理において冷却速度が速いほど,また冷却時の雰囲気が真空,窒素ガス,大気の順に,き裂治癒部の疲労き裂進展特性が向上し,長時間高温保持によりき裂治癒長さが向上した.(2)き裂治癒熱処理において冷却条件の影響を受けることから,き裂治癒は冷却時に進行していたと示唆された.(3)水素環境下での熱処理では,ばらつきを有するものの高い治癒率を示した.(4)き裂治癒メカニズムとして冷却時の熱圧縮応力だけでなく,高温保持中の拡散がき裂治癒に影響を及ぼしていることが明らかとなった.(5)試験片の板厚や,導入した疲労予き裂長さ,応力拡大係数範囲ΔKがき裂治癒率に影響を及ぼすことから,疲労予き裂を導入する際に生じる塑性変形がき裂治癒に影響を及ぼすことが示唆された.(6)EPMAを用いた測定結果より,き裂治癒部では,原子が母材と同程度まで拡散していたことが明らかとなった.(7)AESの測定結果より,き裂未治癒部が滑らかな破面性状を示した要因としてFe酸化物が形成されていたことが示唆された.(8)熱応力解析の結果,真空急冷の条件でも試験片に作用する熱圧縮応力は小さく,冷却時の熱応力がき裂治癒の支配因子ではないことが示唆された.(9)むしろ破面観察から,試験片表面の方が内部よりもき裂が治癒しやすいことが明らかとなり,疲労き裂導入時のき裂周りに生じる塑性変形がき裂治癒に影響を及ぼしていることが示唆された.よって,疲労き裂を導入する際に生じる塑性誘起き裂閉口及び固相拡散接合によりき裂治癒効果が発現することが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね当初計画した通りに研究を進めらているため。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により,疲労き裂進展に伴う塑性誘起き裂閉口現象によりき裂部に生じた圧縮残留応力がき裂治癒の駆動力となること,また熱処理冷却過程における冷却雰囲気が,き裂面酸化被膜の除去及びき裂面の接合性に影響を及ぼすことが示唆された.そこで今後の推進方策として,き裂治癒効果に寄与すると考えられる塑性誘起き裂閉口現象,き裂面酸化被膜の還元反応について定量的な評価を行うことで治癒メカニズムとの関係性を詳細評価することを目的とする.実験概要としては,画像解析によるき裂部周辺の変位場測定,X線回折による試験片表面の残留応力測定及び各測定結果と弾塑性解析結果との比較検討,またナノスケールオーダーの観察分析によるき裂面介在物の評価を行う.また上記のメカニズム評価に基づき治癒効果向上,及び実用部品への治癒技術の適用方法について検討を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
本学で研究打合せを行うなど出張旅費が当初の計画より安価に済んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の計画の通り研究を推進し、より一層積極的に学会等で成果発表を行う。
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