研究課題/領域番号 |
15K05697
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
森田 有亮 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (80368141)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 細胞封入ファイバー / 軟骨細胞 / スキャホールド / アルギン酸 / 湿式紡糸 / 軟骨再生 |
研究実績の概要 |
軟骨細胞を封入したアルギン酸ファイバーを集積させることにより軟骨細胞の均一な分布と一様な再生組織の形成を促すため,軟骨細胞封入アルギン酸ファイバースキャホールドによる培養軟骨の作製技術の開発を行った. 昨年度は,軟骨細胞を封入したアルギン酸ファイバーによるシート状スキャホールドを作製する紡糸装置を開発し,トラバース速度と巻取り速度を調整することにより,ファイバーの直径およびピッチの調整が可能であることを示した. 今年度は,さらに均一な細胞分布を得るためにファイバー径を小さくすることに取り組むとともに,生体軟骨組織に近い厚みをもつ細胞封入ファイバーによる培養軟骨の作製と培養軟骨の長期培養を試みた.ノズル径と巻取り速度を調整することで,ファイバー径を減少させファイバー内部での軟骨細胞の凝集を低減することが可能であった.また,巻取り時間を長くすることで培養軟骨の厚みを厚くすることや,巻取り速度とトラバース速度を途中で変更することで生体軟骨の階層構造を模擬するように異なるファイバー密度(細胞密度)を有する2層構造の培養軟骨を作製することが可能であった.多光子励起顕微鏡により培養軟骨内の細胞分布を観察した結果,ファイバー密度が高い層ほど細胞密度が高くなっていること,スキャホールド内に存在する生細胞の割合は約89%となりファイバースキャホールド作製時に細胞死が引き起こされないことが確認された.一方で,ファイバーの巻取りテンションによって培養軟骨の厚みと細胞密度を巻取り時間によって線形的に制御することが困難であった. 長期培養においては,細胞外基質の産生が観察され,軟骨細胞封入アルギン酸ファイバースキャホールドにおいて紡糸過程では細胞活性の低下が引き起こされないことが確認された.しかし,培養過程におけるコンタミネーション発生など紡糸作業における清潔維持といった問題を改善する必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実施計画として,昨年度に開発した軟骨細胞封入アルギン酸ファイバーの創製技術を用いて軟骨細胞封入ポリ乳酸ファイバーによる培養軟骨の構造化技術を開発する計画であった. 開発した軟骨細胞封入ファイバーの湿式紡糸技術によりシート状の培養軟骨スキャホールドの作製が可能となった.また紡糸条件の検討により,培養軟骨の厚みや細胞密度の調整が可能であったが,紡糸時のファイバー巻取りテンションの影響によりその調整範囲は制限された.作製した軟骨細胞封入ファイバーによる培養軟骨の長期培養を試みたが,コンタミネーションを起こすことがあり,紡糸行程における清潔操作の改善が必要であることが分かった. 以上より,やや遅れていると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,今年度までに開発した軟骨細胞封入アルギン酸ファイバースキャホールドの作製技術を発展させ,さらに安定したファイバー形状と細胞ピッチの調整を伴う培養軟骨の作製を可能とするよう紡糸装置の改良を進める.また,作製した軟骨細胞封入アルギン酸ファイバースキャホールドの長期培養が可能となるよう,清潔環境下での紡糸行程の検討と紡糸装置の改善を進める.最終的に,軟骨細胞封入ファイバーによる培養軟骨の長期培養を行い,細胞活性や細胞外基質の産生の向上に対する細胞封入ファイバーの有効性について評価を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
軟骨細胞封入ファイバーの湿式紡糸装置の作製が概ね初年度に完了していたことにより,紡糸装置の改良などに必要と考えていた材料費が低く抑えられた.一方で,軟骨細胞封入ファイバースキャホールドによる培養軟骨の作製と長期培養による細胞封入ファイバーの有効性の検証に時間を要したために,想定していた検証実験などに使用する予定であった消耗品費や評価のための試薬費などが低くなった.
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次年度使用額の使用計画 |
清潔環境下において軟骨細胞封入ファイバーを安定して紡糸できる紡糸技術の改善と培養軟骨の作製のための構造化技術の開発を試みる.さらに,培養軟骨の長期培養を行い,細胞封入ファイバーによるスキャホールドの細胞活性の維持に対する効果の検証のための装置消耗品や培養および検査用試薬に使用する.
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