研究課題/領域番号 |
15K05699
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
辻上 哲也 龍谷大学, 理工学部, 教授 (80243179)
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研究分担者 |
田原 大輔 龍谷大学, 理工学部, 講師 (20447907)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 模擬骨 / 人工血管 / トルク試験 / 骨ドリリング特性 / 整形外科手術シミュレータ / マイクロフォーカスX線CT / 均質化法 |
研究実績の概要 |
1.PVAの特徴である親水性が,ドリリング特性に与える影響を明らかにするため,乾燥・湿潤状態における模擬骨の力学特性の差異を調査した。新規模擬骨材の顕著な親水性を確認し,湿潤状態を考慮したトルク試験の結果,PVAの親水性がドリリング特性を変化させられることが示された。このことから, 実骨の持つ特性に類似する力学特性を有する医療用模擬骨材料として有用であることが示唆された。 2.マイクロフォーカスX線CTを利用した機械的特性評価のためのボクセルモデリング手法の確立を行うため,撮像方法やしきい値の決定方法について検討した。元素分析に基づいてしきい値を設定し,ノイズ処理を施してボクセルモデルを作成した。このモデルを用いて均質化法により求めたヤング率は,実験とほぼ一致する結果が得られた。骨梁部の正確な物性値設定はもちろんであるが,ノイズ処理による骨梁部の微視的構造の再現が重要であることが示された。 3.ボクセルモデルを用いたポーラス材料のモデリング手法について検討した。ポーラス材料の疑似モデルは面心立方構造を参考にした幾何学的モデルと穴あき円盤をランダムに配置するランダムリングモデルを作成し,実際の模擬骨のヤング率と比較した。その結果,含有率は同じでも内部構造の違いがマクロ特性に大きな影響を及ぼしていることが示された。 4.PVA由来の人工血管材料の力学的特性評価するため,伸長試験に基づいた材料特有の挙動の定量化と人工血管の超弾性を考慮した有限要素解析を行った。伸張試験結果から,ブタ血管と人工血管の剛性はほぼ一致することを確認した。ブタは生理学的,解剖学的にヒトに近いとされ,結果はそれを支持しており,人工血管の特性の有用性が示された。また,超弾性有限要素解析により得られた真応力-真ひずみ線図は実験結果と一致し,提案した評価手法が人工血管材料の力学的特性評価に有用であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.トルク試験により,PVAを含む新規模擬骨の特徴である親水性が,骨ドリリング特性へ影響を及ぼすことが示唆された。 2.マイクロフォーカスX線CTスキャンデータを用いたイメージベース計算モデル手法およびポーラス材料のモデリング手法を確立し,内部構造の違いがマクロ特性に大きな影響を及ぼしていることが示された。 3.PVA由来の人工血管材料の力学的特性評価手法を検討し,PVA由来の人工血管がブタ血管と同等の剛性を持つことを定量的に示すことができた。また,超弾性有限要素解析が人工血管材料の力学的特性評価に有用であることが示せた。
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今後の研究の推進方策 |
1.模擬骨材料に対するマイクロフォーカスX線CTスキャンを基に,微細構造を反映した模擬骨材料の3Dプリンティングに挑戦し,そのトルク試験とねじ押し抜き試験を行う。得られた特性と,元の模擬骨材料に対するトルク試験・ねじ押し抜き試験結果を比較し,材料の微細構造がドリリング荷重に与える影響を評価する。また,PVAがドリリング荷重に与える影響の評価を目指し,模擬骨材料のドリリングを想定した計算モデルを構築して,PVAの粘弾性の考慮の有無によるドリリング荷重の変化を評価する。 2.模擬臓器には血管の他に,心臓,肝臓,腎臓,胃などのモデルがあり,外科手術シミュレータとして切除・縫合に対する感覚的リアリティが求められる。切除や縫合に対する力学的パラメータとして,柔さ特性が考えられる。今後,柔さ測定器を用いた評価手法を確立すると共にテクスチャー解析との関連性について調査する。 3.模擬骨のミクロ構造がマクロな機械的特性と骨切り・骨ドリリング特性変化に与える影響を定量評価する必要がある。模擬骨のマイクロフォーカスX線CTスキャンによるイメージベース計算モデルおよびポーラス材料の疑似モデルに対するミクロ構造の定量的分析を行い,ミクロ構造がマクロな機械的特性に及ぼす影響を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入物品の柔さ測定器の納入価格が,請求時の予定価格より10万円程度安くなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
模擬骨材料や実骨のねじ押し抜き試験を実施するにあたり,試験片の調達が必要になる。また,テクスチャー解析のための試験装置,解析ソフトの調達やその保守料,また,成果報告のための出張費や論文作成費として使用予定である。
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