研究課題/領域番号 |
15K05714
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
大下 賢一 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60334471)
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研究分担者 |
長岐 滋 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (30135959)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 相変態 / 変態塑性 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き,三点曲げ試験装置を用いて変態開始前のオーステナイト相であらかじめ引張塑性変形を加えたのち除荷し,変態開始直前に再度,曲げ応力を自動負荷できるように装置の改良を試みた.その結果,前年度に比較して実験結果の再現性が大幅に向上した.そこでオーステイナイト領域において引張荷重による塑性変形を加えたS45C材に対して,三点曲げ負荷しつつ自然冷却中の温度およびたわみを同時に測定することにより,塑性変形がパーライト変態時の曲げ変態塑性挙動に与える影響について実験的に検討した.その結果,変態塑性たわみは予塑性ひずみの増加とともに減少し,予塑性ひずみが存在する場合の変態塑性構成式はべき乗型関数で表現されることを示した. さらに,上記の構成式を汎用有限要素解析ソフトAbaqusに新たにコーディングした.そして本研究代表者らが従来まで提案していた静水圧依存型構成式,および今回新たに提案した構成式の2種類を用いて解析を実施した.これによると,従来型構成式では表現できなかった予塑性変形によって変態塑性ひずみが抑えられる現象について,本研究で提案した構成式を用いることにより十分な精度で表現することが可能となった.これにより前年度実施した加熱・冷却状態で引張・曲げ応力を板材に負荷するホットプレス過程を模擬した実験結果に対しても,より精緻なシミュレーションが可能となった. ホットプレス現象を高精度にシミュレーションするためには鋼の変態塑性挙動の予塑性ひずみ依存性を考慮した熱・弾塑性構成式の構築が欠かせない.このようにして得られた材料モデルの基づくシミュレーションにより成形不具合の予測精度が向上し,試行錯誤的なものづくりから試行錯誤レス(トライレス)への移行が促進される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多軸(引張/圧縮・ねじり二軸,曲げ)応力下において,高温状態から急速冷却した時に生じる固体間の相変態(ベイナイト変態,マルテンサイト変態など)に及ぼす応力の影響を明らかにするために,以下の検討を行った. まず,S45CおよびSCM440について変態膨張や変態塑性変形の測定精度を向上させるために冷却機構等を変更した.これによりSCM440材のマルテンサイト変態挙動を生じさせるのに十分な冷却速度が可能となった.これまでにこの装置を用いて,異なるオーステナイト保持温度/時間からの急速冷却に伴う変態塑性ひずみを測定し,SCM440のマルテンサイト変態挙動に及ぼすオーステナイト相の影響を検討した.さらに三点曲げ試験装置を用いて曲げ応力と同時に引張応力を自動負荷できるように装置の改良を行い,試験片中立面の移動が変態塑性挙動に与える影響について実験的検討を行った.また,変態開始前のオーステナイト領域において予引張塑性応力を負荷/除荷後に変態開始点で曲げ応力を負荷することにより,予塑性ひずみが変態塑性挙動に与える影響についても実験的検討を行った. 上記の曲げ試験結果に対して,研究代表者らが引張/圧縮・ねじり変態塑性挙動を基に提案した変態塑性挙動に対する静水圧応力依存型構成式の高度化を図った.この構成式の妥当性を検証するため,これを有限要素解析ソフトAbaqusにコーディングし,得られた実験結果と有限要素法による解析結果を比較・検討した.これらによると,解析結果は実験結果と良好に一致し,本研究課題の主目的であるホットプレス過程に対するより高精度な熱処理シミュレーションの実現が可能となった.
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今後の研究の推進方策 |
上記のとおり,H29年度において本研究で新たに提案した構成式を汎用有限要素解析ソフトAbaqusにコーディングしホットプレス過程を模した簡易的な変形シミュレーションを実施し,実験結果との比較を行った.ただし,現時点ではこのような検証は一部の試験条件についてのみであるため,様々な負荷・温度履歴に対して実験結果と比較検討をおこないモデルの改良に努める.また実験結果のさらなる再現性の向上も今後の課題である.得られた結果を検討することにより構成式の高度化とともに,ホットプレス過程の変形シミュレーションの確立を目指す. また,これらの研究成果を論文としてまとめ,投稿予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
論文発表を次年度に行うことにしたため,H29度において72,000円を未使用とした.これは交付申請書に記載した「国際学会発表」をH28年度に前倒ししたために,H29年度は支出していないことが大きい.また,「試験片」の一部を本大学で自作加工したために安価となったことも一因である. 今年度は研究成果の一部を日本材料学会「材料」へ論文を投稿予定である(投稿料71,280円).
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