研究実績の概要 |
前年度に引き続き,オーステイナイト領域において引張荷重による塑性変形を加えたS45C材に対して,三点曲げ負荷しつつ自然冷却中の温度およびたわみを同時に測定することにより,塑性変形がパーライト変態時の曲げ変態塑性挙動に与える影響について実験的に検討した.その結果,変態塑性たわみは曲げ荷重の増加とともに増加し,予塑性ひずみの増加とともに減少することがわかった.一方,引張予荷重の有無が変態開始点および変態潜熱等の変態挙動に及ぼす影響は確認されなかった.この結果をもとに引張予塑性変形が変態塑性たわみを減少させる挙動について相当塑性ひずみ依存型の変態塑性構成式を新たに提案した. 次に,上記の構成式を汎用有限要素解析ソフトAbaqusに新たにコーディングした.そして本研究代表者らが従来まで提案していた静水圧依存型構成式,および今回新たに提案した構成式の2種類を用いて解析を実施した.これによると,従来型構成式では変態塑性たわみは実験結果に傾向に反して予塑性変形の増加とともにわずかに増加しているのに対して,本研究で提案した構成式を用いて得られた変態塑性たわみは実験結果とほぼ一致しており,本研究で提案した構成式を用いることにより十分な精度で表現できることが分かった.これにより加熱・冷却状態で引張・曲げ応力を板材に負荷するホットプレス過程を模擬した実験結果に対しても,より精緻なシミュレーションが可能となった.さらに,成果の一部を日本材料学会「材料」へ投稿し, 2019年6月号(Vol.68,No.6)に掲載が決定した. ホットプレス現象を高精度にシミュレーションするためには鋼の変態塑性挙動の予塑性ひずみ依存性を考慮した熱・弾塑性構成式の構築が欠かせない.このようにして得られた材料モデルの基づくシミュレーションにより成形不具合の予測精度向上が期待される.
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