研究課題/領域番号 |
15K05716
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
篠塚 淳 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30282841)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 切削 / 温度 / 切削力 / 切りくず / 計測 / 流動応力 / FEM |
研究実績の概要 |
本研究では,切削のせん断域の変形場をうまく利用することで,通常の材料試験では実現困難な材料の高温,高ひずみ,高ひずみ速度の変形場での流動応力特性を把握する手法の確立を目指すものである.具体的には,旋削により,切削力,切りくず形状を計測する.ついでに,得られた測定値を境界条件とし,申請者の開発しているFEM切削シミュレータにより材料の流動応力特性を推定する.FEM解析では,加工硬化係数を変数とし,シミュレートされた切りくず形状や温度場が,実験で得られた切りくず形状や温度分布と一致するようにするものである. 本年度は,境界条件となる,切りくずの工具との擦過面温度と切りくずの自由表面の温度分布を詳細に把握するシステム構築を行った.切りくず擦過面の温度分布は,申請者の開発した刃先交換チップのすくい面上に7対の微細Cu/Ni熱電対群を内蔵させた工具で,高温接点部の位置を変えた工具を多数作成し,工具-切りくず接触域全域の温度分布を計測する手法により計測した.被削材のせん断域部分から切りくず自由表面の温度分布は,赤外線サーモグラフィにより計測した.赤外線サーモグラフィカメラは切りくずとの干渉を防止するために刃先点から遠ざける必要があるが,計測する切りくずの大きさは2mm四方程度であるため,そのままでは,分解能が低下する.そこで,Geレンズにより刃先点を望遠拡大する機構を作成した. アルミニウム合金A5056を被削材とし,切り込み深さ2mm,送り速度0.25mm/rev,切削速度386m/minで温度場測定実験を行った結果,工具-切りくず接触界面では,中央部より,切りくず末端部分の温度が高く,自由表面側も同じ傾向であること,切りくず断面の中央部分では,擦過面と自由表面の温度差は約400Kあることなど,切削FEMシミュレーションの境界条件となる温度分布を計測するシステムを確立することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では,本年度は,旋削試験により境界条件の獲得(切りくず形状,切削力,切削温度,切削データの解析により得られる各種物理量)である.切りくず擦過面の温度分布,切りくず自由表面側の温度分布を計測できており,また旋削試験では切削三分力も計測している. よって当初の目標どおり順調に進捗している.
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今後の研究の推進方策 |
切りくず自由表面側の温度分布は,自作のGeレンズ系を追加した赤外線サーモグラフィカメラで動画撮影したが,さらに解像度を上げるために,望遠ズームレンズ系の設計を行う.今後は,切削FEMシミュレータでの解析に重点を行う.シミュレーションでは,定常切削過程を想定し,反復収束法による切削機構の解析手法をベースとするが,弾塑性解析ルーチンでは,加工硬化係数をパラメータとする.ある状況で得られた収束解と,実験で得られた境界条件が一致していない場合,せん断域の加工硬化係数を増減させる必要があるが,このアルゴリズムについて検討する.アルゴリズは,まずは,遺伝的アルゴリズムを採用するが,複数の解が存在する,あるいは,最適解が見つからないなど,うまくいかない場合には,せん断域や切りくずの応力や温度の分布形状,さらに工具-切りくず接触界面の摩擦特性の感度も考慮したエキスパートシステムなど,別の最適化手法の検討,さらには試行錯誤による手動の探索も検討することにする.シミュレートされた結果と実験結果が一致した場合,流線に沿って変形場(温度,ひずみ,ひずみ速度)に対する流動応力のデータを収集することで,流動応力特性の素データを獲得できる.これらをニューラルネットワークで統合することで,流動応力特性の知識データベースを作成する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の残高は3419円であり,ほぼ予算どおり使途した.予定していた備品も購入した.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の予算は,研究計画書どおりに使途する予定である.本年度の残高3419円は,消耗品費に充てる.
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