平成28年度の当初計画であった,低粘度潤滑剤に固体潤滑剤を添加して耐焼付き特性を向上する方法において,固体潤滑剤が自動再潤滑剤の再流入のための流路を塞ぎ,耐焼付き特性を向上させる事が難しい事がわかった.そのため,平成29年度計画のステンレス部品への振動モーションの適用を中止し,ステンレス厚板の穴抜きに振動モーションを適用して,パンチの焼付きを防止して,切り口のせん断面の割合の向上を検討した. 板厚10mmのフェライト系およびオーステナイト系ステンレスを対象に振動およびクランクモーションを用いて穴抜きを行った.パンチには先端角に丸みのない平坦パンチと角部に丸みのある角部丸み付きパンチを用いた.穴抜き時のクリアランスは1-10%の範囲で行った. 平坦パンチにおいては,振動の有無で切り口の結果に顕著な差は見られずクリアランス5%においてのせん断面の割合は板厚の50%であった.丸み付きパンチの結果においては,振動無しにおいては平坦パンチの結果と同様となったが,振動モーションでは,焼付きが抑制されるだけでなく,せん断面が大きく向上した.また,クリアランスを1%にすると,切り口のほぼ全面でせん断面が得られた. 丸み付きパンチを用いて振動モーションで穴抜きを行った場合,パンチ側で焼付きが抑制されて破断の開始が抑制されるだけでなく,ダイス側で生じた破断がパンチ側からしごかれでせん断面の割合が向上することが明らかになった.オーステナイト系ステンレスでは加工硬化が特別大きいため,切り口でのパンチと板材の凝着を起因とする破断が生じにくく,振動無しにおいても,せん断面の割合が大きく,振動モーションによってせん断面の割合が向上する量も小さくなった.
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