研究課題/領域番号 |
15K05721
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
茨木 創一 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80335190)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 工作機械 / 5軸工作機械 / 切削 / 幾何誤差 / 運動精度 / 計測 |
研究実績の概要 |
5軸工作機械は,熱変形や経年変化が5軸運動に支配的な影響を及ぼす場合が多い.そのため,従来のように,機械設計と組み立て調整の技術を磨くだけでは,長い期間にわたって加工精度を維持することは難しいと考えた.本研究の目的は,工作機械が自ら,自分自身の精度を測定し,それを最適に補正するという,工作機械の「自己最適化」の手法を具体化することである.特に実際の加工では,主軸モータや送り系モータなどの発熱,クーラントによる冷却などが原因で,誤差を測定するときと,実際の加工では熱状態が大きく異なる場合が少なくない問題に着目した.本研究では,実際の加工に使用する工具を主軸に付けた状態で,実際の加工と同じ条件で主軸を回転し,実際の加工と同様の熱状態において,5軸工作機械の「自己最適化」を行うシステムを構築することを目的とする. 本年度は,実際の加工に使用する工具を主軸に付け,実際の加工と同じ条件で主軸を回転した状態で,工具とテーブル間の相対変位を測定し,この測定結果から,5軸工作機械の旋回軸の幾何誤差を定量的に診断するアルゴリズムを構築した.回転工具の変位を測定するために,非接触式の工具測定システムを使うことを考案した.非接触式の工具測定システムは,工具長や工具径を測定する装置として加工現場に広く普及しており,それを機械の「自己最適化」に流用する.特殊な測定器を導入することなく,ソフトウェアの導入だけで,「自己最適化」手法が実行できる.この点も,提案法の実用性が高いと考える理由の一つである. 本年度は,市販のマシニングセンタを用いて,構築した「自己最適化」手法を適用し,幾何誤差の診断を行う実験を行った.その結果,実際の加工と同じ条件で主軸を回転した状態で,工作機械の旋回軸の幾何誤差が正確に評価できることが分かった.旋回軸の幾何誤差は5軸加工の誤差の支配的要因となる場合が多い.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は,構築した「自己最適化」手法を適用し,市販のマシニングセンタを用いて,5軸工作機械の幾何誤差の診断を行う実験を行った.その結果,実際の加工と同じ条件で主軸を回転した状態で,工作機械の旋回軸の幾何誤差が正確に評価できることが分かった.基準球とタッチプローブを用いて,主軸を回転しない状態で5軸工作機械の幾何誤差の診断を行う手法は,一部の5軸工作機械では実用化されている.この方法との比較を実験により行った.その結果,この方法では主軸の発熱に伴う工作機械の精度の変化を評価することができず,提案法は加工と同じ熱状態で誤差測定できることを示すことができた. 本研究で使用した工具測定システムは本来,工具長や工具径の測定に用いられる.提案法では,その測定システムを工具とテーブル間の相対変位の測定に用いる.本年度は,この測定の不確かさを実験的に評価した.その結果,工具の形状や加工液の影響を受ける場合はあるものの,工作機械の誤差と比べて,測定の不確かさは十分小さいことを示した. 本研究で提案する「自己最適化」手法のアルゴリズムの構築は完了し,その有用性を基本的な実験で示すことができたと考える.
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今後の研究の推進方策 |
本研究で提案する「自己最適化」手法のアルゴリズムの構築は,初年度で基本的な部分は完了したと考える.そのため,実際の機械加工における有用性を示す実験に今後は主眼を置く.「自己最適化」により,工作機械が熱変形や経年変化の影響を受けても,加工物の形状精度を一定水準以上を維持できることを示すことが重要と考え,そのような実験を行っていく. また,初年度はテーブル旋回形5軸工作機械(テーブル側に旋回2軸を持つ5軸工作機械)を対象とした.この他にも,様々な構造の5軸工作機械が市場に普及している.本手法の実用化のためには,様々な機械構造に応じた,測定の手順や,幾何誤差を同定するためのアルゴリズムを構築しなければならない.具体的には,以下の構造の5軸工作機械を対象としたアルゴリズムを構築する:主軸旋回形5軸工作機械(主軸側に旋回2軸を持つ),テーブル・主軸旋回形5軸工作機械(主軸・テーブル側にそれぞれ旋回1軸を持つ),旋盤形複合加工機,など. 研究協力者である藤嶋 誠 氏(DMG森精機株式会社・専務執行役員)の協力のもと,DMG森精機株式会社が製作する5軸工作機械を測定対象として提供を受け,実験を行う計画である
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