工作機械の運動精度は,熱変形や経年変化の影響を強く受ける.そのため,機械設計と組み立て調整の技術を磨くだけでは,長い期間にわたって加工精度を維持することは難しいと考える.本研究の目的は,工作機械が自ら,自分自身の精度を測定し,それを最適に補正するという,工作機械の「自己最適化」の手法を具体化することである.特に実際の加工では,主軸モータや送り系モータなどの発熱,クーラントによる冷却などが原因で,誤差を測定するときと,実際の加工では熱状態が大きく異なる場合が少なくない問題に着目した.本研究では,実際の加工に使用する工具を主軸に付けた状態で,実際の加工と同じ条件で主軸を回転し,実際の加工と同様の熱状態において,5軸工作機械の「自己最適化」を行うシステムを構築することを目的とする. この研究課題において,実際の加工に使用する工具を主軸に付け,実際の加工と同じ条件で主軸を回転した状態で,工具とテーブル間の相対変位を測定するために,非接触式の工具測定システムを使うことを考案した.非接触式の工具測定システムは,工具長や工具径を測定する装置として加工現場に広く普及しており,それを機械の「自己最適化」に流用する. 本年度は,実際に加工試験を行い,加工物の形状精度から工作機械の幾何誤差を推定することで,提案法との比較を行った.また,提案法を使って工作機械の幾何誤差を数値的に補正する試験を行った.その結果,提案法によって,実際の加工時における工作機械の幾何誤差を非常に高い精度で推定できること,補正によってその影響を非常に高い精度で低減できることを,実験によって示した.また,提案法の測定不確かさの解析を行った.
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