1.本研究の目的と平成29年度の研究実施計画: 本研究では、貝殻の積層構造に類似するナノサイズのグラフェン積層構造を有し、高靭性・高熱伝導性を特徴とする高機能複合材料を開発することを目的としている。この目的を達成するために、平成27年度から基礎実験を進め、最終年度の平成29年度は、(1)廃プラスチックの分解ガスを用いたカーボンナノチューブの生成実験、(2)カーボン複合樹脂の薄膜積層化および性能の検証を実施した。 2.平成29年度の研究実績 計画項目(1):廃プラスチック(模擬試料としてポリプロピレンを使用)を原料としてベンチスケールのナノカーボン合成実験装置に連続的に投入し、さらに高温管状炉を通して改質ガスを生成した。この改質ガスを高温Ni触媒筒に導入することで、CVD法によりチューブ状のグラフェン塊とみられるナノサイズのカーボンナノチューブを合成することに成功した。プラスチックを原料としたグラフェン塊やカーボンナノチューブの合成はこれまで報告例が無く、初めての成功例であり、将来の安価な合成法として展開の可能性が期待できる。 計画項目(2):合成したナノサイズカーボンをフィラーとしてポリカーボネート(PC)樹脂との複合樹脂材料のサンプルを試作した。特性試験の結果、カーボンを3%混合させて製作した複合樹脂材料の引張強度はPC単体より19.8%と大幅に向上した。一方、熱伝達特性はカーボン混合率5%の場合に11%の向上が得られた。 次に、同様の方法で作製した薄膜状の複合樹脂を、20層積層させたサンプルを作成した。この薄膜積層化されたサンプルの機械的特性を測定したところ、個々の層の伸延薄膜方向が同一の場合に、伸延方向と直交する引張過重負荷に対する引張強度が、PC単体の薄膜積層サンプルに比べて21%向上するとの結果が得られた。
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