研究課題/領域番号 |
15K05734
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研究機関 | 静岡理工科大学 |
研究代表者 |
後藤 昭弘 静岡理工科大学, 理工学部, 教授 (00711558)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 放電 / パルス / 表面処理 / 絶縁材料 / 密着強度 / 亜鉛 / 蛍光材料 |
研究実績の概要 |
本研究では、パルス放電を利用して、絶縁材料を工作物へ移動させるために、低沸点材料であるZn(亜鉛)をバインダー兼搬送媒体とすることを検討している。絶縁材料とZnとを混合した粉末を圧縮成形して電極とし、電極・工作物間に放電を発生させ、絶縁材料を工作物へ搬送させる。工作物上に付着した絶縁材料の中に不純物が残らせず、絶縁材料を強固に付着させることを狙っている。 平成28年度は、当初、放電電流波形を変化させてその影響を調べ、最適な電流波形を見つける計画であったが、電流波形を変化させても皮膜からZnをなくすことができなかったため、計画を変更し、皮膜として付着している電極成分である機能性の絶縁材料がどのように工作物表面に付着しているかを調査することと、機能性絶縁材料である蛍光材料を本方法で付着させる技術の試行を優先した。 皮膜中にバインダー兼搬送媒体であるZnが残存しているということは、工作物に強固に付着させたい絶縁材料が、Znに混ざって移動しているだけで強固に付着していない懸念がある。そこで、EPMAによる元素マッピングとカソードルミネッセンス像を利用して絶縁材料の付着の様子を観察した。絶縁材料としては、蛍光材料であるEu(ユーロピウム)をドープしたSiAlON(サイアロン)を用いた。放電による皮膜形成直後の様子と、処理後に工作物表面のZnを希塩酸で除去した状態の様子とを観察したところ、Znを除去しても、SiAlONの付着量はほぼ変わらず、SiAlONが直接工作物に付着していることが明らかとなった。 また、機能性絶縁材料の付着の試みとして、蛍光材料と本技術の相性について検討した。その結果、比較的低融点の蛍光材料であるZn2SiO4:Mn2+を用いた場合には、発光が確認できなかったが、高融点材料であるEuをドープしたSiAlONを用いた場合には、発光を確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27度までに、Znをバインダー兼搬送媒体とした電極を製作し、電極材料を工作物上に付着させることができたので、28年度は被膜中からZnを除去し、絶縁材料の純粋な皮膜を形成する条件の確立を目指した。しかし、矩形波に加え、複雑な電流波形も試みたが、皮膜からZnをなくすには至らなかった。学会等では、Znをなくす必要はないのではないか、という意見も頂いたが、放電のみで絶縁材料を付着できる方が、工程が簡単にできるため、放電のみで極力少なくすることを目指したい。 一方、平成28年度は、皮膜としての絶縁材料がどのように付着しているかを、明確にすることができた。EPMAによる元素マッピングとカソードルミネッセンス像を利用して絶縁材料の付着の様子を観察した。絶縁材料としては、蛍光材料であるEuをドープしたSiAlONを用いた。放電による皮膜形成後の様子と、処理後に工作物表面のZnを希塩酸で除去した状態とを観察したところ、Znを除去しても、SiAlONの付着量はほぼ変わらず、SiAlONが直接工作物に付着していることが明らかとなり、本技術の有用性が確認できた。 また、実用化を目指して、計画を前倒しし、各種蛍光材料を用いて、付着試験を実施した。以前にも、蛍光材料での付着試験を行ったが、28年度は、各種材料を用いて試験を行い、本技術の適用可能範囲を見極めた。その結果、同じ蛍光材料でも、Zn2SiO4:Mn2+等のように融点が低い材料の場合には、放電の熱により材料の機能が失われることがあることがわかった。一方で、融点が高いSiAlONの場合には、皮膜を分析するとSiAlONの構成元素の存在箇所と発光箇所を示すカソードルミネッセンス像の場所がほぼ同一であることから、放電の熱で分解されず、工作物表面に付着したと考えることができる。 以上のように、計画の一部に変更があるもののおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、平成28年度に実施した放電電流の波形を変化させた処理条件の探索を深堀する。電極成形条件と電気条件との組み合わせについてもさらに詳細に検討する。また、28年度に実施できなかった気中でのパルス放電の効果についても確認する。平成28年度の成果からも、油中での放電を利用した場合には、放電のパルス条件によっては、皮膜に大量のCが混入してしまうことがあることがわかった。気中での放電を利用するとそのような現象を防止でき、放電パルス条件の使用範囲を拡大できる可能性がある。しかし一方では、気中の放電は、短絡等、加工現象の不安定を招き、また、蒸発したZnが工作物に再付着する等の問題を引き起こす可能性もある。気中放電の利点・欠点を見極める予定である。 また、28年度に一部前倒しした、絶縁性の各種機能材料を工作物に形成する試験を実施する。発光(蛍光)材料等の成膜を行い、成膜した各種機能材料皮膜の性能評価を行う。実用化に向けて、自動車関連メーカー、金型メーカー等に情報提供を行い、意見をいただく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
皮膜としての絶縁材料がどのように付着しているかを、明確にすることを優先したため、当初計画していた材料購入のための支出が少なくなった。被膜分析のためには、EPMA(電子線マイクロアナライザ)による元素マッピングとカソードルミネッセンスを利用した。この装置は、外部委託した場合には高額な費用が必要であるが、学内設備を利用したため、支出をほぼ0に抑えることができた。 また、当初海外の学会発表の費用を本研究日から支出する計画であったが、他の予算から支出したため、本研究日の支出を抑えることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に購入しなかった各種試験用の材料の購入に充てる計画である。また、平成28年度の海外旅費に計画していた予算は、(支出を予定していなかった)電極成形装置の成形条件を拡大するための費用に充てる計画である。
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