研究課題/領域番号 |
15K05755
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柳澤 秀吉 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (20396782)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 設計工学 / 感性 / 期待 / 材料 / 知覚 / クロスモーダル / 質感 / 錯覚 |
研究実績の概要 |
昨年度構築した期待効果の数理モデルの一般性を検証するために、クロスモーダルに関する分野横断的な文献調査、およびクロスモーダル研究者へのインタビューを実施した。その結果、多くの実験結果から帰納的に提案されている同化-対比仮説モデルとの一致性を確認した。すなわち、予測誤差(期待と実際との差)が小さいときに同化が生じ、その増加と共に対比が生じるという仮説モデルである。 期待効果が、昨年度検討した「重さ」などの感覚次元だけでなく、材質の認識(金属か、プラスチックかなど)などの高次の認知に与える影響を調べるために、見た目、触感、重さを仮想的に合成可能な実験装置を開発した。具体的には、ハーフミラーを用いて実物とは異なる見た目を合成した。この装置を用いて、アルミニウムとアクリルの、見た目、触感、重さについての組合せ(2×3=)6通りを作成した。これらを被験者に提示し、素材の認識を回答させた。その結果、見た目・触感・重さの組合せにおいて、アルミ・アルミ・アクリルの場合はアルミと認識された。これは、見て触った際の情報にもとづく素材予測の確信度が高く、重さが実際よりも軽くてもアルミと認識される「同化」によるものであると考えられる。一方、触感がアクリルで、見た目または重さがアルミの場合、既存の素材のどれにも当てはまらない素材感であるとの回答が有意に多かった。これらのケースでは、感覚次元における予測誤差が大きい組合せであった。大きな予測誤差から「対比」が生じ、既存の素材にはない素材感であると判断されたと考えられる。この様に、異なる感覚モダリティの感覚次元において期待効果が生じ、予測誤差の増大に伴って同化から対比へと推移することで、材質認識も変化することを確認した。このことから、昨年度提案した期待効果の数理モデルが、材質の認識という高次の処理においても適用可能であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の実施状況報告書の推進方策で示したとおりに、クロスモーダル実験結果の網羅的な調査による期待効果モデルの一般性検証、材質感の視覚-体性感覚の合成装置の開発、および材質認識における期待効果の影響の実験までを実施し、提案モデルの妥当性を示している。
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今後の研究の推進方策 |
素材認識において、既存のどの材質とも認識されない感覚次元の組合せ(=Void素材認識)が、期待効果における対比で説明できる可能性を今年度の実験結果から示した。来年度は、合成する感覚モダリティを、視覚、体性感覚(触覚、重さ)だけでなく、聴覚まで拡張した実験を計画・実施し、期待効果が素材認識に与える影響を調べる。すなわち、物体を叩いた時の音を合成し、見た目の素材と異なる音を付加することで、材質認識がどの様に変化するかを明らかにする。 さらに、物体の形状が、素材認識に与える影響を調べる。素材と加工方法が経験的な相関性を有していると考えられる。そこで、加工方法に由来する形状特徴(角R、テーマ角など)と素材の組合せを作成し、特に、素材と加工方法との対応が不一致する組合せにおける素材認識を調べる。
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