本研究は,小型DCモータのブラシなどに広く使用されている電気しゅう動接点の性能向上を目指して,潤滑状態下で広範囲の運転条件(押付け荷重が低く,またしゅう動速度が高い範囲まで)で通電可能なしゅう動接点の形状や材料について提案した. しゅう動接点部は,静止側にしゅう動面が球面状のライダ,運動面側は表面に円周方向に円弧溝を設けた回転ディスク,それら二面間に満たされた潤滑油で構成される.数値解析では接点部の油膜圧力を無次元レイノルズ方程式を用いて求め,得られた圧力分布より接点部に生じる油膜反力および摩擦力を算出した.一方,実験ではピン・オン・ディスク型の摩擦試験機を使用した.しゅう動接点は移動側接点として円弧溝付きディスク[ Solidディスク(材料は通常の非多孔質体の真鍮)と多孔質体ディスク(青銅系焼結含油材料)]と固定側接点としてしゅう動面が球面状のライダ(材料は軸受鋼) で構成されている.ライダは板ばねの一端に取り付けられており(板ばねの他端はZ軸ステージに固定されている),板ばねを介してライダを回転ディスクに押し付けることにより接点部に荷重を付加される.押し付け荷重および摩擦力は板ばねに取り付けられた歪みゲージで測定した.また通電状態は,スリップリングを介してライダとディスク間に開回路電圧0.11Vを印加し運転中の電圧変化(接触電圧)のにより確認した. 数値解析と実験により次の結果が得られた.回転ディスク表面に設けられた円弧溝の半径が大きいほど軸受特性数が高い値(低荷重,高速度)かつ低摩擦力で接触し,導通可能な運転領域が拡大する.この傾向は実験的,理論的解析の双方で定性的,定量的に一致した.また,長時間の通電特性,摩擦特性を調べた結果,Solidディスクよりも多孔質体ディスクの方が安定した通電性と低摩擦力が得られることが明らかになった.
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