研究課題/領域番号 |
15K05759
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
深田 茂生 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (70156743)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ボールねじ / 超精密位置決め / 精密加工 / 加工負荷 |
研究実績の概要 |
現状の工作機械の位置決め駆動要素としては,ボールねじ機構を用いる場合が最も多い.一方,ステージ位置検出用のリニアエンコーダの分解能が数十ピコメートルレベルまで高まってきており,ボールねじを用いた位置決め機構においても,実際の加工負荷外乱下においてサブナノメートルレベルの位置決め分解能を実現することが期待される.本研究は負荷外乱下におけるボールねじ機構の微視的特性と位置決め性能をサブナノメートルレベルで解明し,加工負荷外乱下におけるボールねじ機構の限界性能を実験的に検証することを目的としており,平成27年度には実験装置の構成と基礎実験を中心に以下の内容を実施した. まず負荷外乱の印加要素としてボイスコイルモータ(VCM)を用いた負荷機構を設計製作し,これを空気静圧案内方式による位置決め機構に設置した.空気静圧案内されたストローク50mmの一軸直動ステージを,リード5mmのボールねじと定格出力130WのDCサーボモータで駆動し,位置検出にリニアエンコーダ(分解能70pm)を用い,ねじ軸回転角度検出にロータリーエンコーダ(分解能360万ppr)を用いた.この位置決め機構に対して50N/Aの軸力を発生させることのできるVCMの設計・製作を行った.一辺が68mmの正方形状ボビンに直径φ0.4mmのエナメル線を800回巻きつけ,残留磁束密度1.25Tのネオジム磁石で構成したヨークと交叉させる構造とした. 製作したVCMの出力性能をひずみゲージを用いた力センサにより測定したところ,約49.2N/Aの結果が得られ,ほぼ設計値どおりの値であることを確認した.次に,VCMにより実験装置に一定の軸方向負荷を与えたときの非線形ばね特性を測定するため,余弦波状の目標変位を用いた実験を行った.その結果,微小な領域においては,無負荷状態と同様の非線形ばね特性を確認することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では負荷外乱下におけるボールねじ機構の微視的特性と位置決め性能をサブナノメートルレベルで解明し,負荷外乱下におけるボールねじ位置決め系の適切な制御方法を探索するとともに,実際に簡易的な超精密旋削加工系をステージ上に構成して,加工負荷外乱下におけるボールねじ機構の限界性能を実験的に検証することを最終的な目的としている.その初年度にあたる平成27年度においては,基本的な実験装置の構成と基礎実験の実施を目標としていた.そこで,ステージに対して静的および動的な負荷を非接触で与えるための負荷装置としては,ボイスコイルモータ(VCM)方式を基本とし,補助的に油空圧方式の適用についても検討することとしていたが,VCMの発生力について電磁気学的な知見をもとに事前に詳細な計算を行って設計製作した結果,目標としていた性能をVCM方式により達成することができた. また,空気静圧案内方式位置決めステージに対してVCMによって種々の負荷を与えた場合の微視的変位挙動をサブナノメートルレベルで測定するという計画にもとづいて,静的な負荷条件下における基礎的実験を行った結果,非線形ばね特性のヒステリシス曲線は,負荷を加えた分だけ全体が上下にシフトするが,動作振幅に対する弾性領域と摩擦領域の割合によって挙動が異なり,純粋な弾性特性に近づくに従ってシフトが減少するという実験結果を初めて示すことができた.なお,当初予定していた動的負荷条件下における挙動に関する実験については完了することができていないので,引き続き平成28年度に実験を継続する.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度には,種々の負荷条件下の実験結果をこれまでに得られている無負荷状態の実験結果と比較し,静・動的負荷外乱下におけるボールねじ駆動位置決めステージの特性を考察する.静的荷重に対する非線形弾性挙動の粘弾塑性モデルと,動的負荷がステージに印加された場合の逆方向振動伝達特性に対する力学モデルを導出し,負荷条件下における位置決め制御方法について検討を行う.フィードフォワードを併用したPI-D動作によるゲインスケジューリングフィードバック系と,非線形弾性挙動の外乱推定モデルによるフィードフォワード補正の負荷外乱下における有効性を実験的に確認し,その限界性能を明らかにする.また従来の制御方法による限界を超える新たな制御方法をシミュレーションと実験により探索することとする. また,実際の加工負荷条件下での実験を行うための準備として,エアスライド上にエアスピンドルを設置し,これと直交するステージ上にダイヤモンド切削工具と工具動力計を設置して簡易的な超精密正面旋削加工系を構成する.平成29年度には,本実験装置によって超精密正面旋削加工実験を行って,切削に伴う負荷変動と位置決めステージの挙動を明らかにしてゆく予定である.
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