研究課題/領域番号 |
15K05763
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
小出 隆夫 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60127446)
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研究分担者 |
田村 篤敬 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30394836)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 歯車 / 焼結金属 / 曲げ疲労強度 / 面圧強度 |
研究実績の概要 |
本研究は,焼結歯車の高強度化を図り,動力伝達用歯車の焼結歯車への代替を可能にして,動力伝達用歯車製造に関わる環境負荷低減を目的とするものである.本年度の研究実績は以下のとおりである. (1)各種表面転造を施した高密度焼結歯車の製作 新しく開発されたFe-0.5Ni-1.0Mo-0.26C焼結材料(密度7.4,7.5g/cm3)を用いて疲労試験に使用する歯車を製作した.歯車は,焼結円板をホブ切りし,浸炭焼入れ,歯面研削をおこなったものと,ホブ切り後表面転造あるいは各種ショットピーニングを行って,浸炭焼入れ,歯面研削を行ったものを製作した. (2)空孔率分布,硬さ分布の測定 試験歯車を切断し,断面の写真撮影を行って,焼結まま歯車,表面転造歯車,ショットピーニング歯車の空孔写真の撮影を行い,空孔写真から空孔率分布を測定した.また断面の硬さ測定を行って,硬さ分布を測定した.これらの結果に基づき,表面転造,ショットピーニングが表面近傍の空孔率分布に及ぼす影響,転造,ショットピーニングの効果が現れる表面からの深さの関係を明らかにした. (3)疲労試験 1)曲げ疲労試験 上記(1)で製作した歯車に対してパルセータ試験を行って曲げ疲労強度を調べ,密度7.5g/cm3の歯車では,焼結ままでも溶製材浸炭焼入れ歯車に匹敵する曲げ疲労強度を有するが,7.4g/cm3歯車では強度が不足すること,いずれの歯車も表面転造,ショットピーニングによって溶製材歯車と同等以上の強度が得られることを示した. 2)運転試験 上記(1)で製作した歯車の運転試験を行い,焼結金属歯車の損傷形態はピッチングが支配的であること,密度7.4,7.5g/cm3の焼結まま歯車の面圧強度は溶製材歯車の場合よりも低いが,表面転造あるいはショットピーニングを施すことにより,溶製材歯車に匹敵する強度が得られることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は高Cr焼結材を使用予定であったが,本研究では使用材料をFe-0.5Ni-1.0Mo-0.26C焼結材料に変更した.材料変更以外は概ね研究計画通りに進んでいる.詳細は以下のとおりである. (1)当初予定していた,表面転造を施した高密度焼結金属歯車の製作については,研究実績の概要に述べたように,計画通り遂行できた.さらにショットピーニングを施した歯車も製作できたことは当初の計画以上といえる.試験ローラを製作できなかったことはマイナス要因ではあるが,全体としては概ね順調に進展していると考えられる. (2)空孔率分布,硬さ分布については,(1)で製作したすべての歯車に対して測定することができた.また,ショットピーニングの影響範囲が表面転造に比べて極めて小さいことが明らかになり,今後の研究を進める上で有益な情報を得ることができた. (3)製作した歯車の曲げ疲労試験,運転試験は当初の予定通り遂行できた.焼結金属歯車の荷重伝達能力は,焼結ままの歯車では,溶製材浸炭焼入れ歯車よりも低いが,表面転造あるいはショットピーニングを施すことにより同等以上とすることができることを示したことは,動力伝達用歯車として焼結金属歯車を使用することができ,環境負荷低減に大いに資することができると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により,密度7.4g/cm3以上の焼結金属歯車では適切な表面転造あるいはショットピーニングを施すことにより溶製材浸炭焼入れ歯車に匹敵する強度が得られることを示したが,このような高密度焼結金属材料は,焼結後金型から取り出す際に歩留まりが悪くなることが予想される.また,従来高強度用として用いられていた焼結金属材料は合金成分が多く含まれていた.合金成分はコスト増大の要因になるため,低合金化の要求が高まってきている.さらに,これまでの研究は歯面を研削仕上げした歯車を使用してきたが,実機に用いるためには歯研レス歯車とする必要がある.これらの問題を解決するため,今後は,下記の研究項目について検討を加える. (1)低密度焼結金属歯車に対するパルセータ試験,運転試験 7.0~7.3g/cm3程度の低密度で製作した焼結金属歯車に対して表面転造,ショットピーニングを施し,パルセータ試験,運転試験を行って低密度焼結金属歯車の荷重伝達能力を明らかにする. (2)低合金焼結金属歯車に対するパルセータ試験,運転試験 低合金焼結金属歯車に対してパルセータ試験,運転試験を行って荷重伝達能力を明らかにし,従来の高合金焼結金属歯車の強度と比較検討する. (3)歯研レス焼結金属歯車に対する運転試験 焼結金属歯車の実用化を目指すため,歯研レス焼結金属歯車を製作し,運転試験を行って,研削焼結金属歯車,溶製材歯車の強度と比較検討を行い,実用化の可能性について検討する.
なお,当初は,試験片製作,実験が容易なこともあって,焼結金属ローラも研究対象としていたが,ローラの強度は必ずしも歯車の強度と関係しないことが分かってきたので,今後はローラは研究対象から外し,歯車のみを対象とすることにした.
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次年度使用額が生じた理由 |
歯面観察用のUSBマイクロスコープを購入予定であったが,金額が足らず翌年度に回したため
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次年度使用額の使用計画 |
今年度残金と翌年度助成金を合わせて,USBオシロスコープを購入する予定である.
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