研究課題/領域番号 |
15K05766
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
竹内 彰敏 高知工科大学, 工学部, 教授 (30206940)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 閉じ込め油膜 / 撥水処理 / 親水処理 / キャビテーション / 油膜破断 / すべり出し過程 / 超音波 / 渦流探傷 |
研究実績の概要 |
本研究では,閉じ込め油膜や,撥油性すべり面での気泡の捕集と接触面外への排出による,すべり出し過程での油膜破断の回避や修復効果について,超音法と渦流探傷法を併用した潤滑状態のその場観測を基に明らかにすることを目的としている.本年度は,先ず①滑り出し初期の油膜破断抑制に対する閉じ込め油膜の影響を総括し,効果的な閉じ込めや滑り出しの条件について検討した.次に②表面エネルギ差が大きい撥水・親水組み合わせ面での気泡の捕集効果について検討した.得られた結果を以下に示す. ①トラクション油とEHL試験機(ガラス円板と鋼球),そして,超音波と光学の同時観測により,閉じ込め油膜の効果を検討した結果,閉じ込め状態からすべらせた場合には,閉じ込めの無い場合に比べ,接触部からの反射エコーの変動が緩慢で,キャビティーの発現とそれに付随して起こる表面損傷の発生が遅れ,摩擦は緩やかに上昇すること,この傾向は軽荷重下で顕著になる反面,ディスクの加速度が遅くなると現れ難くなること等が明らかになった. ②10μmの膜厚を有する平行2平面(鏡面)の一方を,5mm/sですべらせた場合,静止側が親水面ですべり側が撥水面の条件では,気泡はすべり面に付着して系外に移動すること,0.5mm以上の大きな気泡は,小さな気泡に比べてすべり易くなることを確認した.すべり速度がV=30mm/sと高くなると,気泡は30~50%ものすべりを発生し,効率的な気泡排除が難しくなるが,すべり面を,Ra=0.40μm(鏡面の40倍の粗さ)の撥水性の強い粗面にすることにより,効率的な気泡の排出が可能になる.一方,親水性と撥水性の縦縞を,すべり方向に対して10°傾けて交互に配置した鏡面すべり面(静止側は全面親水の鏡面)の場合,親水領域にある気泡はすべり面の半分の速度ですべり方向に移動した後,撥水領域に保持されたまま系外に排出された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画に示した,①すべり出し過程での油膜破断抑制に対する閉じ込め油膜効果と,②撥水・親水組み合わせ面での気泡の捕集と系外への効率的な排出の可能性,の把握については,「研究実績の概要」に示したように,おおむね達成できた. ただし,①については,閉じ込め油膜の効果は,鋼円板と鋼球の組み合わせの場合にも認められたが,衝突時の鋼球の跳ね返りにより,閉じ込め油膜の形成が妨げられたため,僅かなものであった.閉じ込め法の再考を含め,今後の課題となった. また,②については,撥水・親水の効果的なテクスチャ(パターン)や,撥水性の強さ等の詳細の検討は残されているが,これまでの縦縞パターンでの結果からの類推で,おおよその推測は可能である.また,潤滑剤の効果的な導入や気泡の捕集にとって有効となる,撥水部と親水部を交互に配置した縦縞テクスチャの条件については,例えば,気泡径に対する縞の幅や間隔の影響を知る必要があるが,微小気泡の生成と保持が難しく,進展が遅れていた.現在,超音波造影剤として使用されるレボビストにより,微小気泡の生成を確認している.これにより,静止状態での気泡挙動ばかりでなく,極薄膜(10μm以下)で高せん断場での気泡挙動の把握も期待できる. 以上のように,本年度までに,閉じ込め油膜や,気泡との親和性の高い撥水面の効果的な配置が,すべり出し過程での油膜破断抑制に及ぼす効果についての,基礎的事項の把握はほぼ終了した.
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」でも述べたように,すべり出し過程での油膜破断抑制に及ぼす,閉じ込め油膜や,撥水・親水領域の効果的な配置に関する,基礎的事項の把握はほぼ終了している.今後は,閉じ込め油膜,親油テクスチャリング,微小な撥油性ディンプル,を組み合わせた,滑り出し過程での油膜破断の抑制法について,超音波法と渦流探傷法を併用した新しい潤滑診断技術で得られる,それら効果の検証結果を基に検討する. (1) 撥油性DLC膜を部分的に親油化した,撥油・親油テクスチャリング表面を作成し,潤滑油の導入や気泡の捕集が容易な条件について,先ず,ガラス製平行摺動面を用いて超音波・光学観測により明らかにした,次に,鏡面の鋼製平行摺動面や点接触EHL面に対し超音波法で同様の検討を行い,キャビティーの発生・成長の抑制にとって効果的なテクスチャリング表面や閉じ込めの条件を明らかにする. (2) キャビティーと膜厚の情報を分離して定量的に評価できる,超音波法と渦流探傷法を併用した新しい測定技術(渦流探傷プローブのコイル芯に超音波素子を挿入した,超音波・渦流探傷複合センサによる)を確立する.そして,平行摺動面や点接触EHL面での膜厚測定に加え,気泡の含有率や,超音波照射領域に対するキャビティーの面積割合等の定量評価の基礎を築く.それらの結果を基に,閉じ込め油膜と撥油・親油テクスチャリングによる滑り出し時の潤滑状態の改善効果を定量的に評価する.
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次年度使用額が生じた理由 |
①閉じ込め油膜の効果は,鋼円板と鋼球の組み合わせの場合にも認められたが,衝突時の鋼球の跳ね返りにより,閉じ込め油膜の形成が妨げられたため,僅かなものであった.この原因である,油膜閉じ込め機構を再考する必要があった.②潤滑剤の効果的な導入や気泡の捕集にとって有効となる,撥水部と親水部を交互に配置した縦縞テクスチャの条件については,例えば,気泡径に対する縞の幅や間隔の影響を知る必要がある.従来法での微小気泡の生成と保持が難しく,対策法を熟考する必要があった.③テクスチャリング用のマスクや処理(平成28・29年度実施)に必要な費用が当初計画を上回る可能性が発生したため,その費用に充当させる必要が出てきた.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額については,①油膜閉じ込め機構の改善(跳ね返り抑制機構の付与),②微小気泡発生用薬剤(超音波造影剤として使用されるレボビスト)の購入と,発生気泡径に基づいて決定された撥水・親水縞間隔を持つ摺動面の作成,③部分撥油(撥水)ならびに部分親油(親水)処理用マスクと,それによりテクチャリングされたガラス製撥油DLC膜円板や鋼製撥油DLC膜円板の製作費の補填,等に充てる.
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