本研究の主目的は,閉じ込め油膜や,撥水・撥油性すべり面での気泡の捕集と接触面外への排出による,すべり出し過程での潤滑膜破断の回避効果の調査にある.本年度得られた結果は以下のようになる. ①気泡の保持にとっては,気泡との付着面積を増大させる粗さの効果と粗さ突起末広部での負圧による気泡の保持効果が期待できる撥水性直交粗さすべり面と,親水性平滑固定面の組み合わせが有利であり,特に,小さな気泡(例えば0.1mm以下)の場合に,気泡は高いせん断場であっても撥水粗さ面に保持され続ける. ②凹部に撥水処理を施した,微小なディンプル(交差配置テクスチャ)を有するガラスすべり面では,滑り出し過程で凹部に保持される気泡は,速度が増しても凹みに留まり続け,下流域には流出しない.同様の傾向は,交差配置テクスチャに近い多孔質潤滑面での超音波の反射エコー分布図でも確認された. ③渦流(探傷)法による膜厚測定では,前年度のφ19mmプローブの半分以下のφ7mmプローブにおいて,厚さ2mmの鋼板裏面と1/2インチ鋼球間の膜厚測定(0.9kHz)を,2μmの精度で可能にした.また,小型フェライトを使用して高密度磁界を発生させる非シールド型プローブ(φ6mm)と,位相と振幅を制御して検出感度を倍増した専用アンプの組み合わせにより,厚さ5mm鋼板裏面と鋼球間の膜厚測定の可能性を確認した. ④超音波・渦流複合センシングについては,前年度提案した気泡含有率(潤滑膜破断率)の概算法の有効性を,鋼製平板からなる2平面において検証した.この場合のエコー高さの変化率(乾燥状態と連続潤滑膜のエコー高さの差を1とする)は,膜厚によらず,ほぼ気泡含有率に比例するため,上記の渦流法による膜厚測定結果,連続潤滑膜での膜厚とエコー高さの較正曲線,そして,潤滑面でのエコー高さの実測値から,容易に気泡含有率の推定が可能になることが確認できた.
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