研究課題/領域番号 |
15K05777
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研究機関 | 津山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
小林 敏郎 津山工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (70563865)
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研究分担者 |
岡田 真 兵庫県立大学, 高度産業科学技術研究所, 助教 (60637065)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 有機EL / 設計工学 / 薄膜 / 割れ / 歪み / 温度依存 / 引張り試験 / 屈曲性 |
研究実績の概要 |
本研究の最終的な用途は、ウェアラブルコンピュータ、フレキシブルテレビ等多岐にわたるものである。これまで、有機物は屈曲性に富むと一般的に考えられ、フレキシブル半導体素子に適用されてきたが、研究代表者は、有機薄膜でも、割れ易い材料があることを世界で初めて報告し、割れ難い材料に置換えたり、割れ易い材料と割れ難い材料の混合層で置換える素子構造を提案し、特許も出願済みである。本研究では、(a) 発光あるいは動作させながら歪を加えて素子性能を測定する性能評価手法(装置、試験片形状、温度依存性)の確立、(b)ナノインデンターを用いた変形特性(応力-歪線図)の測定においてAFM法を用いた検証・高精度化を行うとともに、未着手であった塗布タイプの高分子系有機EL材料や有機トランジスターへの展開、を目指している。
昨年度は,世界で始めて,有機半導体用高分子薄膜の割れ発生限界歪みの温度依存性について検討し、常温より54℃で割れ難い材料(Alq3)と、割れ易い材料(PVK(塗布タイプ)、NPD、spiro-NPD)があることを示した。また、割れの形態も常温での単線型から54℃では分岐型をとなったものもあり、これまでに報告がなく、また予想されなかった結果であったため、超音波顕微鏡を用いた解析などを用いて、薄膜の割れに加え、密着力に起因する剥離を交えた損傷メカニズムを提案した。さらに、発光あるいは動作させながら歪を加えて素子性能を測定する性能評価手法を検討中であるが、これまで、金属電極は十分な屈曲性を有すると考えられてきたが、真空蒸着で有機薄膜の上に形成された金属薄膜は比較的容易に割れが発生することが明らかとなった。
今後は、さらに、屈曲性に対してボトルネックとなる要因とメカニズムを明らかとしながら、屈曲性改善と評価手法の構築を進める計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの達成度は、(2)おおむね順調に進展している。
理由は、本研究では、(a) 発光あるいは動作させながら歪を加えて素子性能を測定する性能評価手法(装置、試験片形状、温度依存性)を確立する予定であり、高分子薄膜を加熱しながら歪みを付与する装置を試作し、4種類の材料について割れ発生限界歪みの温度依存性について世界で始めて検討するとともに、温度依存性が正の材料と負の材料の両者があるという新しい知見を得て、割れに加え密着力に起因する剥離を交えた損傷メカニズムが提案できたからである。さらに、これまで十分な屈曲性を有すると考えられてきた金属電極に関しても、真空蒸着で有機薄膜の上に形成された金属薄膜は比較的容易に割れが発生することを見出した。
また、それらの研究結果については、平成28年の海外での国際会議で1件ならびに国内での学会で2件発表するとともに、H29年度も1件発表予定である。
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今後の研究の推進方策 |
上記の達成度のとおり、温度依存性については単層薄膜については世界で初めての新しい知見が得られた。また、多層薄膜素子に関しても金属電極の割れが観察されるなど、着々と新しい事象が確認されている。一方、ナノインデンターを用いた変形特性の検討については、試験片の作製は完了したが試験は未着手であり早急に着手する。さらに、発光素子に歪みを与えると、予想されなかった様々な部位で割れや断線が発生することが明らかになりつつあり、スケジュール的には、少しずれるが重要な知見であるため、もう少し掘り下げながら、その原因解明についてディスプレイ関連技術者、高分子材料の専門家とディスカッションを進める予定である。
また、研究成果の発表に関しては、H28年度に国際会議で1件発表し、H29年度も1件発表予定であるが、学術的な解析・考察を充実させて、国際的な学術誌への投稿を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
H28年度に未使用額があるが、発光試験用の多層膜の手配やナノインデンターを用いた変形特性の検討については試験片作製中であるからである。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究においては、有機半導体素子を作製する装置、評価装置、電子顕微鏡などの数千万円以上する装置が必要であるが、研究代表者が所属する津山高専ではそれらの装置を保有していない。したがって、昨年度と同様に、単層膜、多層膜などの試験片作製を専門の業者(ベンチャー企業に対する助成金で導入された装置を活用)に発注するとともに、東レリサーチセンターなどを利用して研究を進める。津山高専では、研究で試作した加熱引張り装置や光学顕微鏡を用いて、発注した試験片の評価を行う。
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