本研究では、(a) 発光あるいは動作させながら歪を加えて素子性能を測定する性能評価手法(装置、試験片形状、温度依存性)の確立、(b)ナノインデンターを用いた変形特性(応力-歪線図)の測定において、塗布タイプの高分子系有機EL材料や有機トランジスターへの展開、を目指している。 H27年度は,世界で初めて,有機半導体用高分子薄膜の割れ発生限界歪みの温度依存性について検討し、常温より54℃で割れ難い材料(Alq3)と、割れ易い材料(PVK(塗布タイプ)、NPD、spiro-NPD)があることを示した。また、割れの形態が常温での単線型から54℃では分岐型となったものがあり、これまで報告がなく、また予想されなかった結果であったため、超音波顕微鏡を用いた解析などにより、薄膜の割れに加え、密着力に起因する剥離を交えた損傷メカニズムを提案した。H28年度は、発光あるいは動作させながら歪を加えて素子性能を測定する性能評価手法を検討し、金属電極は十分な屈曲性を有すると考えられてきたが、真空蒸着で有機薄膜の上に形成された金属薄膜は比較的容易に割れが発生することを明らかにし、H29年度の競争的資金「電源立地特別交付事業」を獲得して詳細解析を行った。 H29年度は、薄膜の剥離を交えた損傷メカニズムを検討するとともに、未着手であった塗布タイプの高分子系有機EL材料についてナノインデンターを用いた変形特性(応力-歪線図)の把握を、世界に先駆けて実施し、それらの良好な割れ性は、軟らかく良好な延性に起因する可能性が高いことを示した。 なお、これら一連の研究成果より、有機半導体素子の割れ性と密着性に着目した研究テーマ「フレキシブル有機半導体素子の剥離損傷防止技術および評価・設計手法の確立」が、H30年度からの科研費Cで採択され、引き続きフレキシブル有機半導体の屈曲性改善と評価・設計手法構築に取り組むこととなった。
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