研究課題/領域番号 |
15K05778
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
中住 昭吾 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 製造技術研究部門, 主任研究員 (70450666)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 非破壊検査 / 有限要素法 / 逆問題 / 損傷 / 複素関数 / 診断 / き裂 / 欠陥 |
研究実績の概要 |
本研究課題で磁場解析方法の中心となる拡張型有限要素法(XFEM)は,従来型の有限要素法(FEM)を発展させ,あらかじめ解の局所的特性が既知となるような問題に対し,それを表す関数を解の近似公式に入れ込む解析手法であり,これにより解析のための準備データであるFEMメッシュにき裂などの複雑形状をモデル化することが不必要となり運用面で解析の自由度が向上することを期待するものである. 本研究では,漏洩磁束の分布データ用いた非破壊検査に必要なXFEM解析手法について,以下の適用対象の検討を行った.すなわち,①構造物表面に分布する「表面欠陥」と,②構造物の内部に存在する「内部欠陥」である. ①については,複素数のベキ乗型関数を用いることで実装が可能となった.また②については,内部欠陥はき裂端を2個持つため,そのき裂端の特異性が相互に影響を及ぼすことで,表面欠陥とは異なる取り扱いが必要となるが,本研究では等角写像の一種であるJoukowski写像を用いることでこれを可能とした. 更に,本研究課題で確立したこれらの解析手法に対し,定式化中で現れる積分計算項のアルゴリズムを改良することができた.すなわち,従来有限要素一個の面積全体に対してガウス積分点座標を分布させて数値積分していた方式に対し,その方法では欠陥線を含む要素の計算精度が大幅に低下することが判明したので,その改善策として,これらの要素を欠陥線に沿って幾つかの三角形領域に分割し,それらを個別にガウス積分する方式に改良した.これにより,従来方式よりも解析精度を向上させることが可能となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
工学的応用として非破壊検査(欠陥探傷)を念頭に,その基盤技術としての磁場解析の計算手法であるXFEM(拡張型有限要素法)の研究を推進した. このXFEMはあらかじめ解の局所的特性が既知となるような問題に対し,それを表す関数を解の近似公式に入れ込む解法であるが,本研究課題が対象とする物理現象を表す磁場の支配方程式がラプラス方程式で記述されその解が調和関数となることから,応用として複素関数論の等角写像を利用するアプローチが有効に機能すると考えられた.そこで本研究では等角写像を利用した磁場解析手法を研究の中心に据え,数学的側面とコンピュータプログラミングの側面で検討を行った.また計算結果の誤差を厳密に評価することに留意した. 解析の対象物は,実用上の観点から重要となる「表面欠陥」と「内部欠陥」を選択し,それぞれ等角写像を用いることによるエンリッチ関数の導出により,拡張型有限要素法の定式化を完成させることができた.更に定式化中の積分計算を工夫することで,従来型よりも解析精度の向上を達成することができている. なお本研究課題で新しく構築した手法では,一要素で内部欠陥を完全にモデル化できるという利点を持つことが分かった.これは,欠陥の大きさに対して必要となる有限要素(メッシュ)の大きさの制約条件が緩和されることになるので,事前に欠陥の大きさを知ることができない非破壊検査では運用上,非常に大きな利点となることが期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
初年度は静磁場の順解析手法の構築に注力した.次年度は非破壊検査への応用を念頭に,逆問題(逆解析)の数理モデル構築に力を入れる予定である.まずは2次元モデルとして,複素平面上において,「二重吹き出し」モデルを配置することにより欠陥の長さを推定するアルゴリズムの構築に取り組む予定である.これは2次元モデルなので欠陥の情報は一次元情報(長さ)のみであり非常に基本的な解析にとどまるが,将来的に3次元化を含む高度化に発展させられる可能性があると思われる. また本研究では基本的に2次元モデル上で研究を進めてきているが,実用性の高い3次元化への展開も検討中である.ただし本研究の基盤をなす複素関数論は原則的に2次元空間しか表現できないという制約があり,3次元化への具体的な目処はまだついていない.3次元化の可能性について検討した結果、現段階では現状の複素関数論の延長のアプローチでは困難という判断になっている.よって3次元化に際しては複素数ではなく実数演算による新たな定式化を考えていく必要があると考えている.その具体化が今後の課題であるが,具体的には代用電荷法とグリーン関数の活用を検討する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度中に3次元解析に部分的に着手することを予定していたが,本研究では複素関数を用いている関係上2次元解析が原則となり,3次元化への拡張が中々進捗しなかった.そのため当面の間は,当初想定していたよりも研究に求められる計算機能力が高くなく,また近年の計算機能力自身の向上もあり,PC計算機購入価格が予定よりも低く抑えられた. また当初英文校閲を予定していたが,論文執筆が遅れたため,結局当該年度中の英文校閲を実施しなかった.旅費については,予定していた国際会議出席の後,帰宅ではなく,別件による他の出張先へ直接移動することになったため,本助成金からの旅費が片道分のみの支出に留まった.
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次年度使用額の使用計画 |
磁場解析プログラムの作成が3次元化に進展した場合は,必要に応じて高い計算能力と記憶容量を持つPC計算機を購入する予定である.英文校閲は2件実施を予定している.また旅費の使用については,平成28年度は国内会議2件,国際会議2件の出席を予定している.
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