研究課題/領域番号 |
15K05783
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
平原 裕行 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (20201733)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 水中衝撃波 / レーザー / フォーカシング / 光音響効果 / 金属薄膜 / 非線形波動 / 数値計算 |
研究実績の概要 |
本研究では,光音響効果による水中衝撃波の生成実験において,平面ガラス基盤に光吸収媒体として金属薄膜を蒸着し,低強度のレーザーを照射し,金属端面から生じる水中衝撃波の観察と圧力測定を行った.照射レーザー強度に関わらず伝播速度は水中のマッハ数1程度であるという結果に対し,水中衝撃波強さは照射レーザー強度の増加に伴い単調増加することを確認した.次にレーザー照射により生じる金属内部の光音響波とそれにより生じる水中衝撃波の数値解析を行った.光音響波の解析では,熱伝導方程式と波動方程式を基礎としてレーザー照射による金属の熱膨張によって生じる熱弾性歪みの解析を行い,金属薄膜端面で10~8オーダーの変位加速度が生じるとの結果を得た.水中衝撃波の解析では,保存形圧縮性ナビエストークス方程式を修正Tait方程式を用い,金属端面での変位加速度によって生じる運動量を金属と水の境界での境界条件として与えて解くことで,1MPa程度圧力が上昇し,圧力はレーザー強度に対して線形的に増加するとの結果を得た.実験と数値解析の結果の比較から,照射レーザー強度が100GW/m2以下の範囲では一致が見られた.これはレーザー強度の上昇に伴って金属内部の波動の非線形性が強くなっていく可能性が見出された.光音響効果による水中衝撃波は金属薄膜端面の変位加速度による運動量輸送によって発生したと考えられ,レーザー強度が高い範囲では,非線形波動方程式の導入によってモデルが改善される可能性が示唆された.また,水中衝撃波強さはレーザー強度に対してほぼ線形的に増加することから,水中衝撃波強さの制御が容易であることが示唆された.高繰り返しレーザーでの発生は効果的な衝撃波は得られなかった.しかしながら低周波数で繰り返し再現性の高い水中衝撃波を生成できることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水中衝撃波の発生方法とその予測に関して,所定の結果が得られている.水中衝撃波をレーザーによって発生させる場合の金属の薄膜の性情に関して,再度,検査を行った.薄膜は埼玉県の産業技術総合センターを利用して,自ら作成したものである.薄膜の厚さを種々に準備してその厚さの効果について議論した.本年度の半ばに,薄膜の厚さをある程度に厚くした場合の数値シミュレーションから,衝撃波の強さがある範囲で強くなるとの予測が出されたため,これを実証すべく本実験を行った.これは金属内を伝播する応力の波動において,特殊な現象が見られたために,その効果を実証すべく行ったものであるが,残念ながらこれを実証する結果は得られなかった.そのために,再度,数値シミュレーションを行って,検討しなおすこととしたが,当初,準備した膜厚に対しては,予測した値に近い衝撃波強さが得られており,目標の数値は達成したものと判断することができる.また,本研究での目的としている高繰り返し周波数での,衝撃波発生方法と粒子ドライブ技術に関しても試験を行った.これには,当研究室で保有している繰り返し周波数10kHzまで発信可能なYLFレーザーを用いて試験した.この実験によれば,衝撃波の発生の確認はできず,衝撃波の発生のための繰り返し周波数は数10Hzに留まるとの結果が得られた.これについて,金属内の光音響波の解析を詳細に行って,この音響波の挙動を正確に計算しなおす必要があるという状態である.高繰り返し周波数での水中衝撃波の発生に関しては,まだ改善の可能性があり,引き続き,改善すべき項目を探っていく必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進に向けては三つの項目を掲げている.一つ目は,金属薄膜内の光音響波動の正確な計算手法の確立である.2016年度においては,レーザー入射エネルギーから金属の運動量変換への材料および熱力学的な物理プロセスを表現することが可能であり,これによって衝撃波の生成のための水の運動量伝達に関して良好な物理プロセスの過程を構築することができたと考えている.しかしながら,膜厚を変化させたときの特有な現象を見出したにもかかわらず,実験ではそのような衝撃波の励起は見られなかった.これに関しては,金属薄膜内の応力発生プロセスの過程が不適切である可能性があるため,応力発生の物理プロセスを明確にして,再度,水中衝撃波の励起についての実験に臨みたいと考えている.二つ目は,高繰り返し周波数水中衝撃波の発生の挑戦である.これについても光音響プロセスの再見直しによって,金属内の応力の伝播の非定常プロセスの妥当性を見直し,周波数を増加させる手法を確立したいと考えている.それには,圧縮と膨張の応力の正確な見積もりが必要であるが,これに関しては目下のところ,数値シミュレーションに頼らざるを得ない.数100Hzで発振する水中衝撃波の生成を目指したいと計画している.三つ目は,複数のファイバーから発生する衝撃波を干渉させて,より強度の高い衝撃波を発生させる技術を確立したいと考えている.これについて,レーザー光源の分割とファイバーの設置およびファイバーの研磨と金属蒸着などの技術を克服しなければならないため,7月後半での開始を目指して,実験を行いたいと考えている.以上の三項目を主たる目標として実験を行い,かつ数値シミュレーションにおける光エネルギーから内部応力への変換プロセスという学術的な面での推進を行っていく計画である.
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