本研究課題は,粘弾性流体の複雑で特異な流れ現象を流体中の波動伝播の観点から見直して,見通しをよくすることを目的としている.最終年度には,粘弾性流体中の流体力に関する研究として,沈降する球の抗力と鞭毛螺旋模型の推力に関する実験を行なった.また,支配方程式の型変化に関係する研究として,平行平板間流れにおける急縮小部の擾乱の伝播に関する実験を行なった.さらに,平板の運動によって発生するせん断波パルスの伝播と減衰特性が各種溶液中で調べられた.研究期間全体を含めて得られた研究成果は以下の通りで,特異な現象の発生が一定程度予測可能になった. (1)波動伝播が顕著に見られる粘弾性流体の代表として,ひも状ミセル水溶液があげられる.溶液濃度が高いほどせん断波の伝播速度は大きく,対イオンのモル比の影響は小さい.ひも状ミセル水溶液中ではせん断波の減衰は比較的小さいが,高分子水溶液であるキサンタンガム水溶液やCMC水溶液では,せん断波は比較的早く減衰する. (2)波動伝播が顕著に見られる流体中では,せん断波の伝播速度に対する物体の運動速度の比で定義される粘弾性マッハ数が1を境に物体が受ける流体力の流速依存性が急変し,粘弾性マッハ数が1を超えると過剰な流体力がはたらくようになる.一方,せん断波の減衰が大きい流体中では,流体力の流速依存性の変化は認められなかった.このことは,粘弾性流体中の波動現象が物体にはたらく流体力に影響を及ぼしており,粘弾性マッハ数が重要なパラメータとなることを示している. (3)粘弾性マッハ数が1以上のとき,波動伝播が顕著に見られる流体中を沈降する球のまわりには,せん断波の包絡面であるマッハコーンが形成される. (4)波動伝播が顕著に見られる流体の平行平板間の流れにおいて,粘弾性マッハ数によって支配方程式が双曲型となる領域では,急縮小部の擾乱が伝播する経路と特性曲線との一致が見られる.
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