平成29年度は、前年度まで進めてきた数値シミュレーション環境と手法の整備に基づき導入整備を行った並列計算環境において、回転液滴の変形、分裂挙動を定量的に評価する数値シミュレーションを系統的に実施した。解析条件は、既存の実験において、液滴サイズと回転数の関係が測定されている条件とし、まず、準定常的にアレイ形状の変形が増加する回転数領域を安定に再現するための、シミュレーション条件の検討を行った。初期条件として与えた回転によるエネルギーは、回転変形とともに消費され、準定常状態においては初期値と大きく異なり、また、初期回転数により、準定常状態に静定するまでの過渡変形振動挙動が異なるため、もっとも安定に準定常状態が継続する解析条件を決定した。さらに、昨年度に開発した数値データから液滴の最大弦長と、その回転数を求めるアルゴリズムを利用し、液滴変形と回転数の関係について、数値シミュレーション結果と実験結果が定量的によく一致することを明らかにした。これにより、シミュレーション手法、プログラム、解析パラメータ、境界条件等が妥当であったことが確認されたため、変形液滴内部の応力場を調べるため、準定常状態から分裂に至る過程での液滴内部流動を数値的に計測した。シミュレーションにより得られる静止座標系の流れ場を回転座標系に変換した結果、液滴内部には、回転楕円体からアレイ形状に変形する過程で渦が発生し、分裂に至るまで循環流が持続することが明らかとなった。循環流は、回転楕円体の表面が凸型であるのに対し、アレイ形状への変形過程で凹型に変化する際に発生することが確認され、この循環流により、準定常状態では、内部応力場が軸対象ではないことが明らかとなった。この結果は、準定常状態から分裂に至る過程を利用して粘性係数を測定する場合に、考慮しなければならない点であることが示された。
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