研究課題/領域番号 |
15K05794
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉元 宏 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (50222055)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 分子流体力学 / 膜分離 / マイクロ流 / 省エネルギー / 廃熱利用 / 希薄気体力学 / 熱遷移流 / クヌーセンポンプ |
研究実績の概要 |
多孔膜に関する分子交換流を利用した, 2種類の気体膜分離試験装置を開発した.今回の実験では,3 x 3 cm四方の汎用濾紙(混合セルロースエステル製,穴径100ミクロン)を,高温と低温の金属板で挟んだ装置を基本ユニットとして製作した.濾紙の穴径は大気圧下の気体分子の平均自由行程と同程度であり,その結果生じる希薄気体の熱遷移流によって,ユニットはポンプとして動作する.ポンプの強さは金属板の温度差に比例し,温度差100℃の実験では,1ユニットで毎分100cc以上の流量が可能であった.気体分離を起こす分子交換流は,この流れを圧力差でせき止めた時に現れる流れであり,軽い分子が高圧側に,重い分子が低圧側に流れる現象である. 第1の気体分離装置は,2ユニットでポンプ部を構成し,そこで得られる高圧によって,別の1ユニットの熱遷移流をせき止め, 分子交換流を発生するセパレータとする構造である.この装置を用いた実験では,毎分5 ccのヘリウムーネオン混合気体を,成分濃度が約5 %異なった2種類の混合気体に分離することに成功した.この実験は,最大100 ℃の小さな温度差を唯一のエネルギー源として,連続的に混合気体を分離することが原理的に可能であることを示すものである.この成果は,現在大量に廃棄されている低レベルの廃熱の新しい利用方法が発見されたことを意味している. 第2の気体分離装置は,市販の機械式ポンプで得られる高圧によって,2ユニットのセパレータを駆動する構成である.この構成では,1ユニットが材料気体の重い成分分子を抽出し,別の1ユニットが軽い成分分子を抽出する役割を担う.この装置では機械式ポンプが電力を消費するが,より小さな温度差(40 ℃以下)によって,第一のシステムと同等の気体分離能力が得られることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
【研究実績の概要】欄で述べたように,本研究では,廃熱レベルの温度差だけをエネルギー源とする,新しい混合気体の分離法を実験によって実現することに成功した.しかし,試作した「基本ユニット」の性能は満足できるものではない.数値計算によれば,このユニットを気体分離装置として稼働させるためには,多孔膜(濾紙)と金属板の間に気体流を与える必要がある.ところが,試作した装置では,多孔膜と金属板の間の流路抵抗が大きい.また,流路抵抗の個体差も大きく,大規模な装置に発展させるには困難が予想される. 当初計画においては,大流量装置の検討や,濃度変化量の増大を研究目的としていたが,これらの目的を達成するには,装置の大規模化が不可欠である.そこで,今年度は,上記の流路抵抗を削減する研究に取り組んだ.幾つかの基本ユニットの試作検討の結果,流路抵抗が桁違いに小さい新しい装置の試作に成功した.新しい設計を用いることにより,流量・濃度変化量が大きな混合気体分離装置も実現可能であると期待される. このように,当初予期していない問題点の出現によって研究計画の一部が遅延しており,今年度の進捗状況は「やや遅れている」と評価する.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,まず,「基本ユニット」の新しい設計を行い,その試作に取り組む.新しい基本ユニットでは,上記【現在までの進捗状況】で述べたように,多孔膜と金属板の間の流路抵抗が小さい構造を採用するため,装置の膜面積を大幅に増大させることが可能である.大規模なシステムを実現するためには,パーツの信頼性の向上が不可欠である.新しい基本ユニットでは,膜面積の上昇に伴う気体流量の増大により,装置の多くの部分を,自作から市販の工業製品の利用に変更できる.また,新ユニットでは,複数ユニットの組み合わせにより部品点数を削減している.これらの対策により,装置の信頼性は大幅に向上するだろう. 上記の新しい「基本ユニット」では,信頼性が高い多数の基本ユニットを同時に製作可能と思われる.それら多数の基本ユニットを組み合わせ,混合気体分離装置を構成する.組み合わせ方を工夫することにより,流量あるいは濃度変化を増大させる基本的な手法を実験によって確認できる.混合気体分離能力の向上により,希少気体の濃縮実験,分子質量比が類似した気体・希薄蒸気の濃度増幅など,より困難な実験が可能になるだろう. 上記による,混合気体分離装置の実現可能性の検証と並行して,当初計画で初年度に予定していた,大流量装置実現のための理論計算およびMEMS 装置に対応した流路に対する DSMC 解析を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度試作した実験装置では, 本研究で提案する新しい気体分離法により,実際に連続的に混合気体を分離生産できることが確認できた.しかし,【現在までの進捗状況】欄で述べたように,ここで開発した装置には,実験規模を拡大する前に,改良すべき問題点が見出された.これに対応して研究計画を見直し,今年度は基本ユニット装置の改良に注力した.新規装置の開発を行わなかったため,今年度分の使用額が減少する結果となった.
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次年度使用額の使用計画 |
今年度の研究により,装置性能を改良し,上述の問題点を解決する方法が見い出された.次年度以降は,【今後の研究の推進方策等】で述べたように,新しい装置を試作し,研究を遂行する予定である.装置規模の拡大により,当初計画よりも多くの研究経費が必要となるが,これには,今年度使用しなかった研究経費を割り当てる予定である.
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