固気液3相の接触線が固体壁面上を有限速度で移動する際,接触角が速度に依存する動的ぬれの現象が観察される.壁面上のμmスケールのあらさや汚れ等の欠陥のぬれ挙動への影響について,実験ならびに数値シミュレーションを用いた検討を行った. 分子レベルで均質なSAMs膜(Self-Assembled-Monolayers:自己組織化単分子膜)をFBI装置により部分的にはぎとり,周囲よりぬれやすい直径200μmの円形欠陥を作成した.欠陥上を移動する接触線の変形挙動を観察するとともに,レーザー光の反射を利用して局所の動的接触角を同時測定する装置の作成を行った.試料液体としてエチレングリコール水溶液を用い,接触線の速度を2~8mm/s(キャピラリ数=1~3×10-3)で変化させ,接触線ならびに動的接触角のふるまいを観察した.その結果,欠陥上での接触線のトラップと変形,から離脱後の急激な変形回復に至るスティックスリップ的な挙動,ならびにその間の動的接触角の変化を実験的に示すことができた. 上記実験と同じ系について,数値シミュレーションによる検討を行った.Front-Tracking法を用いた数値計算結果は,実験結果を定性的に再現できることを示した.また,実際の壁面における動的ぬれ挙動を検討するため,半円環状の欠陥が分布する壁面を通過する接触線の挙動のシミュレーションを行った.その結果,上に凸の楕円状に欠陥が分布するとき,複数の欠陥が一つの大欠陥のように振る舞い,大きな接触線の変形が生じることを示した.このとき,欠陥の占める面積占有率は数%にも関らず,数度の動的接触角の変化が生じることを示した.また,系のエネルギー平衡条件に基づき,接触線の変形に伴う気液界面の変形エネルギー仕事を計算した.この仕事量の速度依存性により,速度によって接触角が上に凸の非線形的な振る舞いを示すことを明らかにした.
|