研究課題/領域番号 |
15K05811
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
太田 有 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (50211793)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ターボ機械 / 軸流圧縮機 / サージ / 旋回失速 / ウインドミル / 非定常計測 |
研究実績の概要 |
航空エンジン用軸流圧縮機試験装置を用いて,低流量運転時に発生するサージ・旋回失速共存状態の非定常挙動,ならびに高流量運転時に発生するウインドミル駆動状態における非定常流れ状況の把握を目指して,本年度はまず実験的研究を施行した. 低流量時のサージ・旋回失速共存状態では,従来から先行研究結果が余り報告されていない多段(2段)仕様の圧縮機に対して,動作点を種々に変化させることで数種類のサージサイクルが発生することを確認し,その各サイクル中の失速セルの挙動を把握すると共に,二重位相固定平均化法を用いてセルの可視化も行った.特に,サージサイクルが不規則に選択される不安定な運転状態に着目し,サージサイクルを決定する内部流れ場の主要因に関する詳細な調査を行い,サージ回復過程では,深い失速状態の流れ構造の違いによって,次サイクル挙動が既に決定されていることを明らかにした.今後は,次サイクルを決定する重要因子の選別に研究の焦点を当て,サージサイクル挙動の把握と制御を目指したい. 一方,高流量運転時に発生するウインドミル挙動に関しては,補助送風機を用いて高流量運転状態を模擬することで,動翼Tip側から徐々にウインドミル状態へと移行する過程を把握した.特に,ある特定の流量域では,Tio側でウインドミル挙動,Hub側で圧縮機駆動が共存し,圧縮機動力が相殺される運転点が存在する.動翼スパン方向に全く異なる流れ状態が存在しており,今後の重要な研究課題の一つと考えている.更に高流量域では,動翼の全スパンにわたってウインドミル駆動状態となり,動翼,静翼共に流れは翼圧力面側で大剥離する傾向を示し,流れの損失も大きい.特に損失は静翼側で顕著に発生し,その原因として静翼列内スパン方向に中心軸を持つ縦渦が非定常的に発生していることを実験的に示した.今後はCFDによりさらに詳しくこの縦渦を調査する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験装置の完成と圧力,流速の計測準備に予想していたよりも時間が必要となったが,実験開始後は比較的順調にデータを取得することが出来たため,当初のほぼ計画通りの成果を挙げることが出来たと考えている.ウインドミル駆動状態に置ける調査では,当初,実験での内部流れ構造の把握を目指す計画であったが,実験の結果,静翼列内部にスパン方向に中心軸を持つ非定常渦の存在が確認されたため,急遽,数値解析研究を計画に加えて,渦の非定常挙動と構造,発生機構の解明を目指すことになった. 一方,低流量域でのサージ・旋回失速共存系の調査では,多段使用であるがために,複雑な失速形態とサージサイクルが観察され,それらの分類と整理に予想した以上の時間が必要な状態となっている.
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今後の研究の推進方策 |
低流量運転時のサージ・旋回失速共存系の調査では,多段圧縮機特有の複雑な失速形態と数種類のサージサイクルとの関係をまず整理・分類する必要が生じている.そのうえで,共存状態における内部流れ場の把握を,旋回失速セルの挙動調査に焦点を当てながら行うことを考えている.失速セル内の非定常挙動や流れ状況がサージサイクルに与える影響,ならびに次のサージサイクルを決定する物理的要因の把握を目標としたい.過渡実験装置を用いた計測を主たる研究方法と考えているが,必要であれば市販コードを用いた数値解析研究を導入することも考えたい. 一方,高流量運転時のウインドミル挙動調査では,損失発生の主要因となっている静翼圧力面側の剥離流れと翼列内を移流する非定常渦の把握を当面の目標としたい.動翼列内の流れ状況を把握するために,超小型圧力センサーを動翼表面上に設置し,テレメータを介してデータの授受を行うことで,動翼回転系での非定常圧力データを取得を行いたい.これにより,動翼表面上での剥離位置の非定常的な挙動や逆流状況の把握が可能となり,静翼列への効果を定量的に把握することが可能となると考えている.一方,当面は実験のみを計画していたが,非定常渦の挙動ならびに発生機構の調査には数値的研究が不可欠であると考え,動静翼列内の流れ場を対象としたin-houseコードを用いたDES解析を実施すべく,準備を進めている.既に保有しているRANSコードによる計算結果と比較することにより,DES解析の有効性を検証すると共に,DES解析の利点である渦分解能の高さを利用して,非定常渦の把握を行いたい. ウインドミル実験の最終的な目的の一つは,ウインドミル駆動状態で動翼回転数がどのように決定されるかを検討することであり,翼面上の非定常圧力の実測と詳細なCFDによって,この手掛かりが得られるものと期待している.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では,国内旅費として200,000円を計上し,日本ガスタービン学会定期講演会での発表を予定していたが,実験装置の完成と計測系の整備に予想以上の時間が必要となったため,2015年10月に講演することを断念した.このため,当初の国内旅費を急遽,消耗品費に置き換えたため,4万円程度の繰り越しが発生することとなった.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度繰越額が43,398円であるので,次年度の消耗品費にこの額を算入し,動翼内部回転流れ場の計測系を整備する際に必要となる各種消耗品費に充当することを計画している.
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