研究課題/領域番号 |
15K05824
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
丸山 直樹 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20209703)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 廃棄物再資源化 / 過熱水蒸気 / 高温処理 / エネルギー効率化 / 環境技術 |
研究実績の概要 |
1.具体的内容: 本研究は,高温域で高い比エンタルピをもつ不活性ガスである過熱水蒸気を用いて,油分付き金属切削屑を付加価値高く再資源化するための,循環型過熱水蒸気脱脂システムの高性能化を目的とする.連続処理を行う上での水蒸気の高温利用の課題,蒸気制御方法の最適化を熱力学視点から解決し,本システムの有効性をエネルギー消費量,脱脂量,二酸化炭素排出量削減および天然資源有効利用の観点で定量的に評価する.この中H27年度(初年度)は,高温処理システムの構築と予備実験を行い,本システムの稼働評価を行うことを目的とする. 2.意義: 過熱水蒸気利用により被加熱物を不活性雰囲気で高温処理できることは,廃棄物の可燃性にかかわらず成分の不明確な廃棄物を熱処理する上で大きな優位性を持つ.しかしながら,工業的に利用する場合,1) 水蒸気生成のためには大きな蒸発熱を必要とするため,過熱水蒸気を凝縮放出すること無く循環利用したい,2) 高効率処理のために処理温度の高温化が望ましい,という課題がある.本研究は,過熱水蒸気を利用した廃棄物処理手法の拡大に貢献できるものと期待され,高温処理の廃棄物再資源化のシステムが構築できる意義は大きい. 3.重要性: 本研究は,主に1) 従来にない不活性高温下で,物質加熱する,2) 過熱水蒸気の循環利用による高効率/省エネルギー化,3) 原料を蒸発分離回収する,の3点を特徴とする.過熱水蒸気利用による加熱技術に関しては,かねてより高い関心が持たれているが,本研究で対象とするような不活性高温下で高温熱処理されている例は数少ない.本研究により,過熱水蒸気の循環利用による高効率な高温熱処理技術の有効性が示されれば,省エネルギーの熱処理後術の確立に結びつき,学術的,かつ工業的に有用なものとなる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
油分付き金属切削屑を対象として,過熱水蒸気を用いた脱脂システムの処理温度を高温化することによる効果を把握するため,脱脂システムの構成,熱計算,仕様の検討,要素機器の設計とシステムの構築を進め,予備実験を行った. システム改善のための理論計算では,高温熱処理に要する加熱量,システムの圧力損失を考慮に入れた過熱水蒸気循環のための対策,システムを構成する各機器の熱バランスの計算を行った.とくに,従来350℃程度であった処理温度を450℃以上にできるよう,高温雰囲気の処理室を構築することと,過熱水蒸気を循環しながら金属屑と油分を分離回収するシステム構築のための機器要素設計と導入を進めた.H27年度の前半にシステムの改善を行い,後半には予備実験に取りかかり,高温熱処理の可能性を試みた.対象とする廃棄物は,金属加工工場から排出される油分付きアルミ系切削屑であり,これを不活性雰囲気で高温加熱することにより油分を蒸発させ,金属屑から分離した. 予備実験では,脱脂処理温度を約400,450,500℃に設定し,金属切削屑の脱脂実験を行った.これにより,各々の条件下での単位処理量あたりの消費電力量ならびに残留油分を測定した.高温で脱脂処理を行うことにより,従来に比して付着率を大幅に低減することができた.また,脱脂温度450℃,500℃で処理を行うことで,既存の遠心分離器や圧縮法等の脱脂方法より優れた付着率である1.0%以下に低減できることを示した. 以上のように,加熱処理温度高温化のための装置を構築し,予備実験を行うことで,高温化処理による有用性を示すことができた.加熱処理温度に関しては,当初計画の450℃以上の熱処理のできる装置を構築,予備実験ができた.また,切削油の付着率に関しては,研究2年目に予定していた値1.0%以下を達成することができた.以上より,達成状況を(2)と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,初年度に得られた予備実験結果を基にして,実験装置と実験条件を調整しながら,実証実験によるデータ収集と蓄積,再現性の確認,信頼性向上を行う.実験条件としては,原料処理量,蒸気循環流量,加熱処理時間,加熱温度,油水分離凝縮温度,等を予定し,これらを種々変更することで,脱脂量と各機器単位の消費エネルギーを測定する.脱脂処理温度450℃以上,油分付着率1 wt%以下の目標は,ひとまず平成27年度中に達成したが,最適な条件下ではない.このため,最適運転条件,すなわち省エネルギー運転のための条件を理論的観点とも併せて提案する.これらにより,システムの性能と妥当性評価を行う.また,もう一方の課題である油水分離については,ミスト状に浮遊する油分をトラップするための対策について,フィルタの材質,密度,構造等を工夫して対応を試みる. 平成29年度は,これまでの実験の追補実験を行うと共に,前年度までに得られたデータを元に,脱脂システムに要するエネルギー(主に電力),脱脂量,脱脂前後の切削屑の付加価値について,ライフサイクルアセスメント手法を用いて省エネルギー,資源有効利用,リサイクル材の品質向上の観点から分析評価を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初,本年度の購入品として,水蒸気循環用耐熱ブロワと過熱水蒸気対応流量計の導入を予定していた.水蒸気循環用ブロワに関しては,水蒸気流路の見直しにより圧力損失を減少させることが出来たため,現有の耐熱ブロワで目的の蒸気流量を得ることができた.水蒸気流量計に関しては,別途経費で手配できた.一方,実験中に発生するオイルミスト除去の必要が生じ,差額からこの対策に使用した.また,実験装置製作のための材料費の増加にも使用した.
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次年度使用額の使用計画 |
残金については,次年度用の実験材料(原料),実験装置改善のための材料費に使用する予定である.
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